高度経済成長を経て日本社会が泡沫の景気を追い求め始めた頃、高校生で株を始めた中江滋樹が、証券界に颯爽とデビューした。その兜町の風雲児が、金融業者と直談判している姿を何度か見かけたことがある。よれよれのTシャツに髭面、足元は草履履き――。そんなバブル時代の光景をふと思い出してしまった。
青山通りに面したスタートトゥデイ東京オフィスの重そうなドアが開くと、円形の大きなテーブルに腰かけ、スマホをいじっている前澤友作(42)が、遠くに見えた。そこは透明なガラスで囲まれた半球の空間で、そばの広報担当者に聞くと、会議室なのだそうだ。まるでアニメに登場しそうなそんな異空間に案内され、名刺を交わした無精ひげの前澤の足元を見ると、ビーチサンダルを履いていた。
衣料通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する前澤は、この10月1日をもって社名をスタートトゥデイから「ZOZO」に変更する。東証一部に上場した株式の時価総額は昨年、念願の1兆円を突破し、前澤は5000億円を超える個人資産を持つ事業家として、さまざまに話題を振りまいてきた。
〈満員電車に揺られている会社員の姿が、切なく見えてしまったのです。周りを見るとみんな寡黙で暗い表情でした。1時間半の通学時間がとても無駄のように思えてしまいました〉
7年前の2011年10月、日本経済新聞夕刊の「人間発見 笑顔と平和を通販で」という連載記事の中で本人が起業を思い立った端緒について、そう振り返っている。千葉の自宅から東京・国分寺市の早稲田実業高校に通っていた前澤は、サラリーマンの通勤風景に接するうち、将来に対する疑問を抱いたと述懐した。
そこから学校をさぼってアルバイト生活に明け暮れ、ミュージシャンの道を目指したという。高校卒業と同時に渡米し、帰国後、ライブ活動のかたわら、レコードやCD販売を始めてひと儲けした。そこからアパレル分野のインターネット通販で大成功をおさめる。伝えられる本人の半生をざっと紹介すれば、そうなる。絵に描いたような立身出世物語である。
剛力との恋の行方
英雄色を好むという古諺を地でいくように、数々の浮名も流してきた。15年にはあのダルビッシュ有の前妻でタレントの紗栄子との交際を明かし、最近では剛力彩芽と連れ立って7月のロシアのサッカーW杯を観戦した。2人はまるで世間に見せつけるかのように、それぞれのインスタグラムに仲睦まじい写真を投稿し、ネットが大炎上する始末だ。
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source : 文藝春秋 2018年10月号