福田家3代目がホンネで語った
福田氏
政治家になる気はカケラもなかった
――今回のアンケートの「5年後の総理にふさわしい政治家は?」という質問では、福田さんが圧倒的な1位でしたが、その結果を聞いてどのようなご感想ですか。
福田 何という無謀な企画をやるんですか(笑)。いきなり「5年後の総理に」と言われても、まったく実感が湧いてこないです。もちろん票を入れていただいたのは嬉しいですが、「ええ?」という驚きと、もう一つは「困ったなあ」という戸惑いが正直な感想ですね。
昔からよく「総理になりたいか」と聞かれることはありました。ただ、私自身は「ポストに就きたい」という欲はないんですよ。むしろ今、自分がやるべき仕事に見合った力、権限を欲しいと思うタイプで、何か具体的なポストを求めることはない。現在、就いている総務会長の職も、まさか自分に声がかかるとは思ってもいませんでした。
――そもそも政治家になるつもりもなかったそうですね。
福田 ええ。私は、もともと商社に勤める会社員で、政治家になる気はカケラもなかった。父(康夫氏)にも「政治というのは継ぐ仕事じゃないの。だから継ぐことを考える必要はない」と言われていました。ただ、父が官房長官を務めていた2004年に当時の秘書官が倒れてしまい、それで急遽、手伝いのような形で事務所に入ったんです。そうこうするうちに父が首相になり、私も首相秘書官として支えることになってしまった。それが今はこうして政治家になっているわけですから「人生は分からない」が私の座右の銘なんです(笑)。
進次郎さんに期待をかけすぎ
――少し前までは、将来の総理候補として、真っ先に小泉進次郎さんの名前が挙がり、その女房役、官房長官の候補として福田さんの名前が出ることが多かった。しかし今回は立場が逆転した印象です。アンケートの回答でも「進次郎氏の脇役ではない」という声もありました。
福田 こういうことを聞かれるから嫌なんですよね(苦笑)。同じ政治家だから、小泉さんと並べられることはあると思います。彼とは農林部会でも部会長と私が代理の立場で農政改革に取り組んだ仲です。ただ、政治家の人気なんかすぐに上がりも、下がりもする。そこを分かってほしい。昔の民主党の支持率は6~8パーセントに過ぎなかったのが、自民党から政権交代する直前の2009年には40パーセント近くまで跳ね上がった。世の中そんなものです。
だいたい、小泉さんについては、みんなが変な期待をかけすぎですよ!(笑) たしか、4年前の若手議員による国会改革についての会見の場でも、本人がいる前で同じことを言いました。当時は彼もまだ37歳だったのに、記者から厳しい質問を浴びていた。でも考えてみてください。皆さんがその年齢の時に「日本を背負え」なんて言われましたか。言われていないでしょう。
近頃、彼は色々と揶揄されていますが、人の心をつかむ能力は高いですし、一緒に海外に行った時、外国人と堂々と英語で渡り合っていました。付け焼刃じゃない。彼の能力は絶対に日本のために活かすべきだし、もっと長い目で見るべきです。
小泉氏と
――今回のアンケートでは、福田さんの「中小企業政策」や「地方創生政策」などを評価する声が多かった。もし総理になったら、そういう政策を推進したいですか?
福田 「もし」って……、仮定の質問にはお答えしません(笑)。そもそも総理というのは「政策力」よりも「政治力」が求められる存在だと思っています。ただ、総理になって中小企業政策を本当にやるかどうかは別としても、実は岸田総理が掲げる「新しい資本主義」の中には、「働く人への分配機能の強化」という項目がありますが、これは私にとってまさに“ど真ん中”の政策理念です。
私が中小企業政策に取り組んできた理由は2つあって、この国の家庭のおよそ7割が中小企業と小規模事業者から生計を得ていて、地域社会の柱になっている。この方々にもっと上手くお金が回る仕組みを作って「地域社会の柱を強くしたい」という想いがあります。
もう一つは、働いている人が正当に評価される世の中にしたいということです。例えば、下請法という法律があって、親会社が下請け業者に支払うべき代金を不当に減額したり、支払いの遅延を禁止する法律です。私自身、数年前の法改正に関わりましたが、これは何も「中小企業が親会社にイジメられるのを防ぐ」という単純な構図ではない。むしろ働く人が技術を磨いて、同じ仕事を短時間でこなすようになっても、評価されずに賃金が不当に安く据え置かれる状況に問題があるわけです。
きちんと働いている人が「頑張っても仕方がない」「この国はもう駄目だ」と希望が持てない社会は絶対におかしい。「新しい資本主義」では「成長と分配の好循環」を目指していますが、まさに中小企業の働き手が評価されて意欲を持って稼ぎ、好循環が生まれる社会づくりをすることがその核になると思っています。
首相には「大局観」が不可欠
――福田さんの場合は「働き手が正当に評価される社会」が、目指すべき国家像ですか。
福田 国民にとって自分が評価されると思えるような社会ですよね。それを一番に掲げたいと思います。
かつては「人間は資本だ」と重宝されてきたのに、バブル崩壊以降、不景気になると「人間はコストだ」と社会の重荷にされてしまった。少しでもコストを削減しようと効率化を進めるのが、現在の日本の社会構造ですよね。だからこそ「社会保障費の増加」とか「高齢者は現役世代のコスト」といった問題が頻りに議論されるようになったわけです。それに伴い、若い世代も下を向いて将来に期待が持てなくなった。
ただ、私は「日本はこんなに良い生活ができる国だ」「みんな頑張ってここまで来た」とプラスの側面に光を当てて国民を鼓舞したいんです。言葉を費やしても国民が飯を食えないことは分かっています。だからせめて「働いたら評価される」と実感できる人を一人でも増やす政策から始めたいと思っています。
――それは政治家になってから考えるようになったのですか?
福田 政治家になる前です。もう十数年以上前からですね。私は商社の調査部で「日本担当」という訳の分からないマネージャー職でした。それは日本の全て、つまり政治、経済、文化、社会、あらゆる分野の動向を見て、情報を集めて、編集して役員にレポートを上げる仕事です。
仕事を続けるうちに「この国は、一国二制度だな」とつくづく思うようになりました。「大企業と中小企業」があれば「都市と地方」もある。両者は常識、生活のベース、経済の伸び率に至るまで全てが異なっている。しかも一方にだけ人がどんどん集中して優遇されるので、過度な偏りができてしまう。それを食い止めるために「中小企業」や「地方」を力強くしたいと思ったんです。
――総理大臣には「この国をどうしたいか」という大きなビジョンが必要ですが、現在のような危機の時代には、総理にはどのような資質が求められると思いますか。
福田 岸田総理の「聞く姿勢」はとても大事だと思います。危機的な状況だからこそ、政治は国民に寄り添う存在でなければならない。同時に、「大局観」が不可欠です。「過去はどうだったのか」と歴史を識ることで今と未来が見えてくる。もう一つ、「世界の中の日本」という大局観も必要だと思います。「世界の中でどう生きるのか」は、政治には欠かせない視点です。さらに申し上げれば楽観主義でしょうか。特に現在のような社会的な危機や、世界的な変革がある時代には、将来に対し明るい期待感を持たせることが、リーダーには求められると思います。
中国から何を得るのか
――アンケートでは、福田さんが、総理を目指すうえで「外交政策が見えてこない」というマイナス評価がありました。
福田 例えば米国は3億3000万もの人がいて、中国には14億人いる。米国にはどんどん移民も流入して、地続き周辺国のマーケットも拡大していく。中国は国内に大きなマーケットをもっている。一方の日本は島国ということもあって、まるで試験管の中のように隔離された環境で、資源もなければ、少子高齢化が進み1億2500万人の人口を大幅に増やすことは難しい。そんな中で米国や中国と伍してやっていくには相当に柔軟でしなやかな外交戦略が求められると思います。
――例えば、経済安全保障や軍事防衛などで中国には具体的にどのように対応していくべきでしょうか。
福田 2008年に日中両政府で東シナ海のガス田を共同開発しようとしていた頃は、中国も日本と対等に向き合おうとしていたと思いますが、10年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件が起きて以降は、その雰囲気も全くなくなった。今は日本も「ここは絶対に引かない」という防衛ラインを強固に主張すべきなのは当然ですが、加えて「中国から何を得るのか」をしたたかに計算しながら関係を構築しなければいけません。
ただ、私は第3次安倍内閣で防衛政務官を経験しましたが、正直なところ、中国には「これ以上の進出行為は早くやめてくれ」「どこかで線を引いてくれ」と言いたい。
中国は歴史的に見ても、侵略主義というよりも、自国の権益保持のために、その周囲の接続領域を増やそうとしているのでしょう。とはいえそれ自体は脅威ですし、攻撃するよりも防衛する側の方が、遥かにコストがかかるのは事実です。中国やロシアは自国の防衛産業があるので防衛費を増額した分、産業育成にもなりますが、日本の場合、現状では防衛費を増やしても海外にお金が流れ出る構造になっている。中国の軍事活動に歯止めをかけるように、外交面など、あらゆる手段による対応が必要です。
「今は財政出動するべき」
――小誌昨年11月号に掲載されて、国論を二分した矢野財務次官の“バラマキ批判”の論文については、どのように評価されていますか。
福田 まず矢野論文が出たことについては、「言いたいことを主張するのは良いことだ」と思っています。ただ、私自身は「今は財政出動するべき」との考えですし、トップが決めたことには従うべきだと思います。現に、財務省も嫌がっていた、コロナ禍で被害を受けた中小企業の事業転換を支援する「事業再構築補助金」の拡充に従っている。当初は1兆1000億円超の予算でしたが、今年度の補正予算では追加で6000億円を積み増すことが決まりました。
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source : 文藝春秋 2022年2月号