しがらみで身動きできない「政と官」を動かす
佐々木氏
パンデミックのエネルギー源は「分断」
この2年余り、人類はさながらコロナウイルスの支配下に置かれてきた。現在までのところ、感染者数は4億人を超え、死者数も600万に迫りつつある。このうち感染者数及び死者数において突出しているのが、象徴的なことに民主主義陣営のリーダーのアメリカである。どのような大国もその支配を免れなかったし、日本でもこの間2つの政権が退陣した。コロナウイルスは膨大な人命の喪失に加え、人間の広範な社会生活や経済活動に破壊的・攪乱的影響を及ぼすことによって人類の自己制御力を試し、それに戦いを挑んでいるように見える。
多くの論者が指摘するように、こうしたパンデミックはその破壊の力によって残酷なまでに社会の変化を加速し、「コロナ以前」への回帰願望は無残に破壊されかねない。勿論、人間は新たな協力関係の構築によってそれに抵抗できないわけではないが、パンデミックが広がるためのエネルギー源が「分断」にあることは厳然たる事実である。実際、パンデミックとは人間が人間にとって端的に危険な存在——その意図や意思とは無関係に——である状況に他ならない。従って、隔離が唯一の方策とならざるを得ないことになる。
「おまかせ」デモクラシーとの決別を
この点で100年前のスペイン風邪の場合と異なり、良質のワクチンが速やかに供給されたことは大きな朗報であった。しかしワクチン接種をめぐって社会的な分断が活性化されたことは論外として、ワクチンは生命の維持を可能ならしめたが、パンデミックによって破壊された社会システムを修復できるわけではない。
むしろ、格差の拡大であれ、政治の分断であれ、財政赤字の拡大であれ、グローバルガバナンスの劣化であれ、地球環境の悪化であれ、コロナ危機はそれ以前からあった社会の断層を露出させることになる。人類が打って一丸となってコロナウイルスと戦うといったグローバル型政治でも登場するならばともかく、コロナ後の政治はこれらの難題の悪化を食い止めるだけでほとんどエネルギーを費やしかねない。
ここで3つのことを確認しておきたい。
第1に、今回のパンデミックは格差や人種などをめぐって国内の分断と政治の統治能力の劣化が進むのをまるで狙い撃ちするようなタイミングで起こったことである。その経験を総括し、今後に備える絶好の機会を逸してはならない。最も有害なのは元に戻ることを当然とする発想である。コロナ禍は政府の役割の積極的な見直しを促し、これまでの新自由主義的自由化路線とは異なる機能の模索が始まっている。岸田首相の「新しい資本主義」もこうした模索の一つと考えられる。恐らくは企業経営も働き方も大きな転換点に差しかかっている。当然、デモクラシーも新しいステージに入ることになる。
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source : 文藝春秋 2022年4月号