「うちは法的整理しかないのでしょうか」と社長は口走った
創業144年の名門企業、東芝。その歴史始まって以来、最大の挑戦といわれたのが米原子力大手「ウェスチングハウス」(以下、WH)の買収劇(2006年)であった。買収金額はおよそ6200億円(当時)。身の丈を越えているとの声も聞かれたが、当時の東芝社内は米国産業史にその名を刻む企業を買収したという高揚感に溢れていた。
そうした社内の空気を代弁するかのように、買収の陣頭指揮に立った社長、西田厚聰は胸を張ってみせた。
「WHを買収する前の当社からするならば、そう、想像もできなかった、考えさえ及ばなかった世界が広がっている」
当時の西田には、5年後に福島原発事故が起こることなど、想像もできなかったろう。CO2削減の声が高まる中、原子力発電の世界的な再評価は「原子力ルネッサンス」と呼ばれ、原子力ビジネスの市場規模は膨れ上がっていた。東芝の原子力事業が2015年度までの達成目標として掲げた売上高は1兆円。決して難しい数字には思えなかった。事実、2桁の新規建設の受注が決まり、世界最新鋭機を有するWHへの関心は高く、さらなる受注も時間の問題に見えた。
だが、バラ色の計画は頓挫する。東日本大震災、そして引き起こされた東京電力福島第一原発の未曾有の事故が原因だった。原子力ビジネスのマーケットは急速にしぼんだ。
さらに、福島原発事故の4年後、西田をはじめとする歴代3社長による、およそ2300億円もの粉飾決算が明るみに出る。そして、翌年にはWHののれん代2600億円の減損を強いられる。名門東芝は一気に赤字企業に転落したのだった。
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source : 文藝春秋 2017年03月号