日本の次に愛するイタリアのことなので、十二月四日に行われた国民投票の結果には悲しい想いになっている。なぜなら、二院制を事実上の一院制に変えるための憲法改正の可否を問うた国民投票でイタリア国民はNOと答え、それによって提案者であった首相は辞任し、この若き首相が実行中であった改革路線が挫折することになってしまったからである。
イタリアには抜本的な改革が、絶対に必要だった。そして、三十代でフィレンツェ市長から首相になったマッテオ・レンツィ一人が、始めから明確にそれを主張し、若さゆえの活力でそれらの断行に着手し、三年足らずの期間にしても、効果は少しずつ現われていたのである。
まず、緊縮一本槍の路線から成長路線への転換。職を増やそう、しかも若年層の職を増やすことを目標にかかげ、そのためには経済界との共存共栄もOKだとした。この転換は、しかし、もはや組合員の職場の保持しか頭にない労働組合を敵にまわしてしまう。若年失業率が高いこともあって、既成労組は中高年の牙城と化しているからだ。
しかもこの方針転換は、自党内の守旧派に、左派的でないと反対理由を与えることにもなった。レンツィの主張する、機能する政治の実現には右や左という従来の党派色は関係ない、という態度は、左翼政党と自負しているこの人々からは、許し難い異端になるのである。子供の頃より「ウニタ」(日本ならば「赤旗」)だけを読んで育ってきた、赤こそが労働者階級の色と信じて疑わない人々は、レンツィは右だ、つまり資本家側だと思ってしまったのだ。
これが、自党内の中高年層でこれまでの政治の既得権層でもあったベテランたちに、打倒レンツィの理由を与える。国民投票でもNOと投票すると公言し、実際にそうした人々でもある。レンツィのかかげたスローガンの「廃車処分」の的にされるのを怖れた中高年層の反撃は、女の嫉妬や恨みの水準ではない。廃車処分が決定的になる前にレンツィをつぶす、の一念の前には、イタリアの将来などは知ったことではないのだ。
ブリュッセルにあるEU政府も、ヨーロッパ主義者のレンツィを助けるどころか、足を引っぱっただけだった。
EUの加盟国であるということは、EU政府に縛られるということでもある。国家予算も、政府で決め国会が可決すればそれでOK、ではない。政府が決めた予算案はまずEU政府に提出し、認めてもらう必要がある。ではEU政府は、どのようなことでレンツィ政府の足を引っぱったか。
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source : 文藝春秋 2017年02月号