帰国中に考えたことのいくつか

日本人へ 第164回

塩野 七生 作家・在イタリア
ライフ 社会 政治 国際

 ヒラリーの敗因。

 生涯の大勝負に二度も、初回の相手はオバマ、二度目の敵はトランプ、で敗れたヒラリーの政治キャリアはこれで終わりだろう。それでもなお彼女の敗因を探るのは、野望に燃えている日本の女たちへの参考になるかと。

 まず、ヒラリーにとっての最大の敵はヒラリー自身であることへの自覚の欠如。ガラスの天井とか男社会の壁とか、そんじょそこらのフェミニストが口にする薄っぺらな責任転嫁は、大統領を目指した女ならば口にすべきではない。

 第二に、「初めての女性大統領」を強調しすぎたこと。これをしたことによって、もともとからして自信喪失気味の白人男たちに、これまでは黒人、次は女、その次はゲイか、という怖れを抱かせてしまったのではないか。

 敗因の第三だが、何かをやりたいから大統領になるのではなく、何が何でも大統領になりたいという印象を、有権者に与えてしまったこと。野心的であるのは、悪いことではない。だが、それだけというのでは男であっても見苦しいし、支持者の拡大にバイアスがかかったのも当然だ。

 横浜の学校で起きた、福島からの避難児童へのいじめ。

 これを知ったときにまず感じたのが、最大の責任は加害者児童の両親、それもとくに母親、にあるということだった。またこれは、起るべくして起った問題でもある、とも思った。

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source : 文藝春秋 2017年01月号

genre : ライフ 社会 政治 国際