「不敵でおかしい猛獣」キャスリーン・ターナー

スターは楽し 第197回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画
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キャスリーン・ターナー
AF Archive/Savoy Pict/Mary Evans Picture Library/共同通信イメージズ

 キャスリーン・ターナーを思い出すと、「おかしな猛獣」という言葉が反射的に浮かぶ。もっと単純に、肉食獣とか悪の華とかと言い換えてもよさそうなものだが、それではやはりひと味足りない。

 ターナーには、強くて非情な役が似合う。冷酷で凶暴な側面はもちろん濃厚なのだが、それに加えて、なんともいえないおかしみが潜んでいる。高飛車でクールな食虫植物に見えて、身体の奥に笑いの手榴弾が隠れているのだ。その匂いが鼻先をかすめると、見る側が思わずにやりとしたくなる味わいが滲み出てくる。

 彼女の映画デビュー作は『白いドレスの女』(1981)だった。舞台は夏のフロリダ。高温多湿がピークに達するこの時期を背景に、ターナーは危険きわまりないファム・ファタルのマティを演じる。マティは文字どおり、「男の命取りになる女」だ。身体に貼りついた白いドレス姿で登場した瞬間から、彼女は弁護士のネッド(ウィリアム・ハート)を完全に搦め捕り、骨までしゃぶり尽くす。

 バーバラ・スタンウィックが主演した佳篇『深夜の告白』(1944)を彷彿させる話だが、氷の暗殺者を思わせるスタンウィックに対して、ターナーは「平熱が37度を超える」熱帯植物のような捕食者だ。しかも彼女は、計算ずくの罠を仕掛ける一方、自身の快感をさらけ出してネッドを吞む。そう、本気の快楽と入念な策略が、高い水準で入れ替わりつつ同居している。こんな技を使われたら、大概の男はひとたまりもない。

 キャスリーン・ターナーは、1954年にミズーリ州で生まれた。ただ、父親が国務省の職員だったため、キューバ、ベネズエラ、ロンドンなど、幼時から世界各地を転々としている。どこかエキゾティックで無国籍的な匂いがするのは、育った環境のせいかもしれない。

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source : 文藝春秋 2022年11月号

genre : エンタメ 映画