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【イベントレポート】文藝春秋100周年シリーズカンファレンス 「ジョブ型雇用時代」の人材採用・育成、組織マネジメント

 2020年に経団連が発表した「経営労働政策特別委員会報告」において「ジョブ型雇用」の比率を高めていくことが目標として掲げられたことを契機に、日本企業においても「ジョブ型雇用」への注目が高まりを見せている。また、新型コロナウイルスの流行により、リモートワークの採用など多様な働き方が求められる中、組織改革、人材育成のあり方を見直す必要性も高まっている。

 欧米各国の企業が採用する「ジョブ型雇用」とは、特定の職務を遂行できる人を採用する雇用のことを意味し、年齢や学歴にとらわれることなく「スキル」を重視し、仕事に人を合わせていくといった、人材配置、人材採用のあり方を指す。

 これまで多くの日本企業では、働きながら適性を見極め、長期的な視点で育成していくことを前提に、新卒一括採用による「メンバーシップ型雇用」を採用してきた。しかしながら、専門人材の不足、高まる人材流動性、働き方に対する価値観の多様化に伴い「報酬制度」「教育制度」「採用制度」「労働契約」「ジョブディスクリプション」など改定を模索する企業も増えてきている。

 こうした変化に対し、企業側と従業員側の双方の視点から、「ジョブ型雇用」のメリット、デメリット、「メンバーシップ型雇用」のメリット、デメリットを吟味し、それぞれの企業の文化や風土に合った制度を築いていくことが必要なのではないだろうか。

 本カンファレンスでは、「ジョブ型雇用時代」の人材採用・育成、組織マネジメントに焦点を当て、専門人材の採用や育成、帰属意識の醸成、マネジメント教育、組織としてのパフォーマンスの向上などこれまでとは違った角度から、仕組みを作るうえでの課題や留意点、対応することで得られる企業成長の可能性について多様な視点から考察した。

 人事院・川本裕子総裁から、『21世紀型人材活用のヒント ~ 人を大切にする組織、人を育てる組織となるために ~』と題して基調講演をいただき、カンファレンスが始まった。

■テーマ講演①

 ジョブの可視化と発信が鍵!
ジョブ型雇用時代の「採用ブランディング」

久保様①
 
久保 圭太氏(株式会社PR Table PR室マネージャー / Evangelist)
PRSJ認定PRプランナー、IT系ベンチャー企業にて営業/人事戦略/広報の責任者を経て、2018年よりPR Tableへ。カンファレンスやオウンドメディアの企画・運営を行うPR Table Communityを統括。また、PRコンサルタントとして100社以上の企業ブランディングやコンテンツ企画・活用支援に従事。2021年よりPR室を立ち上げてマネージャーに就任。エバンジェリストとしてイベント登壇、ラジオパーソナリティ、記事寄稿など多方面で活動中。

 PR Tableの事業領域は「企業の人的魅力を広めるサービスをワンストップで提供」すること。時代に適したデジタルPR施策を低コストで実現している。DX人材の採用強化やダイバーシティ推進施策を展開する企業の支援を通じて得てきた知見をお伝えする、と久保氏は前置きし話し始めた。

 ◎広報・PR視点から見たジョブ型雇用時代の採用とは?
一部大手企業では新卒採用にジョブ型の導入が進む。特に、理系学生の70%は入社前に配属先を知りたいと思っている、という調査結果もあり、ジョブ型志向は強まっている。採用側の共通の課題は「ジョブの認知形成」「母集団形成(関係作り)」にある。人材採用の難易度が上がっているため、潜在ターゲットへの興味喚起など、人事だけではカバーし切れない採用の前工程の領域では広報・PRの視点が必要になっている。

久保様②
 

 鍵はジョブの「可視化」と「継続的な発信」。採用市場において選ばれるブランドとしての魅力を高め、「働く価値のある場」として認識してもらうこと=採用ブランディングが必須だ。ブランディングにより、魅力を感じてくれる人が増加/入社後のミスマッチ減少/従業員エンゲージメント向上/求める人材からの応募増加/ネームバリュー勝負からの脱却──これらの有機的な相乗作用が期待できる。

 ◎採用ブランディング実行におけるチェックポイント
採用ブランディング実行に向けたステップは、①ターゲットペルソナ仮説設計 ②予算・体制の構築 ③実行フェーズ、である。

 とりあえず情報発信するのではなく、①まずはペルソナを考える。ペルソナが求める情報や現在の候補者の離脱理由などを整理し、そこに届けるコンテンツや情報、記事を用意する。②予算策定にあたっては、エージェント比率の低減目標/歩留まり改善の目標数値/採用決定に至っていない媒体費、を確認・見直して投資していくこと。採用体制の構築にあたっても、継続性を視野に入れできれば専任担当のアサインが望ましい。適切な外部パートナーの選定も大切なポイントだ。

久保様③
 

 ③ブランディング戦略設計・企画(Plan)をひとまず終えた実行フェーズにおいては、コンテンツ発信・メディア活用(Do)⇒コンテンツ発信の評価(Check)⇒戦略・コンテンツ企画の見直し(Action)、のPDCAを継続的に回していくことが重要だ。採用ブランディングにおける情報発信やPDCAは、単発や半年程度では不十分。自社サイトやSNSで「差別化ポイント」を継続的に、ストック型=資産を積み上げるイメージで情報発信していきたい。

 ◎ケーススタディ
採用ブランディングにおけるPR Tableのアプローチは、①課題解決のコンセプト作成(デジタル施策を“点から線へ”、企業の評判形成・KPI改善) ②独自の価値提供の仕組み作り(システムを中心に据え、企業のケイパビリティ不足を補完)、にて行う。

 トヨタ自動車の事例では、『talentbook』などのジョブを可視化するコンテンツ活用でイメージギャップを解消し、PR費用の投資対効果が3倍以上に/単月応募数が前年費1.5倍に/ソフトウエア人材の直接応募数が上昇、といった実績がある。talentbookは累計1000社以上の働く人情報が集まるメディア。スタートアップ企業系の事例も含め、ジョブが伝わる臨場感のある事例コンテンツが数多く載っているため参考にしていただきたい。

久保様④
 

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■特別講演

 双日が考えるジョブ型雇用のカタチ
~ 多様性を“活かす”、挑戦を“促す”、成長を“実感できる”組織を目指して ~

橋本様①
 
橋本 政和氏(双日株式会社 常務執行役員 人事、総務・IT 業務担当本部長)
愛知県出身。1990年日商岩井(株)入社。入社後は物流部隊に配属、以降、ロシアCIS関連事業、5年半の米国デトロイト駐在を含め自動車関連事業を担当。2011年にインフラ事業へ転身、鉄道、再生エネルギー、ガス事業、社会インフラ、ヘルスケア事業の開発に取り組んだ。執行役員 環境・産業インフラ本部長、執行役員 エネルギー・社会インフラ本部長、常務執行役員 インフラ・ヘルスケア本部長を経て、22年4月より現職。

 ◎双日の「人的資本経営」
企業理念は「双日グループは、誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します」。事業や人材を創造し続ける総合商社として、人材戦略においては「多様性と自律性を備える“個”の集団」を目指す。人材戦略を支える3つの柱は①多様性を「活かす」 ②挑戦を「促す」 ③成長を「実感できる」

 ②のチャレンジ浸透の事例としては、「発想×双日」Hassojitzプロジェクトがある。2022年には、eスポーツ企業「GRITz」を立ち上げ、入社4年目の社員が社長に就任した。組織を超えた挑戦・発想を実現するシンボリックな取り組みが、双日らしい当たり前の企業文化として浸透している。

 Hassojitzプロジェクト以外にも、独自のエンゲージメントサーベイによる定点観測/データと社員の声に基づく人事施策の導入/「動的」な人材KPIの設定とモニタリング/双日グループ健康憲章(Sojitz Healthy Value)策定、などの施策、取り組みを行っている。人材戦略と人材施策の実行においては、経営や事業現場を巻き込んで社内全体の共感を得ながら進めていくことが実行性向上につながると考えており、そのための対話を今後も強化していきたい。

 ◎社員のキャリア自律に向けた取り組み
双日では、世代に応じてキャリア形成できる環境を整備している。特に、若手(育成世代)にはローテーションやトレーニー制度を通じ、“10年でふた回り成長”を企図している。また、双日で培った経験を活用し社会へ貢献できる人材を輩出すべく「双日プロフェッショナルシェア(SPS)」や、独立・企業支援制度も整備。加えて、双日のOB/OGを対象としたコミュニケーション・プラットフォーム「双日アルムナイ」※を設立し、これらにより“緩やかな双日グループ”を形成し、人材交流などを通じて新たなビジネス機会の創出を目指している。

※アルムナイ(alumni)=英語で卒業生、同窓生の意
双日プロフェッショナル
 

 2021年4月設立のジョブ型雇用を可能にした関連会社、双日プロフェッショナルシェアは、“多様な価値観”“働き方の選択肢を増やす”“ワークライフバランス”の実現を目指している。双日からSPSに移籍した社員は、それぞれ自身の経験やスキルを活かしつつ双日と社外への貢献を両立している。

 ◎2030年を見据えた「双日版ジョブ型」への挑戦
双日社内では2030年を見据えた際、外部要因としてAI・テクノロジーの変化/人材流動化/少子高齢化⇒労働力不足/働き方・価値観の多様化、の4点を想定している。30年を見据えた際の「人材」における“ありたい姿”を役員合宿などにて議論し、「生産性向上」を一つの重要施策として位置づけた

 そして、生産性向上に向けたジョブの可視化に取り組んでいる。双日においては、ジョブの属人化からの脱却、そしてジョブの見える化⇒切り分けが特に重要。可視化したジョブに対して、高いスキルを備える専門人材や副業を含めた社外人材リソースを機動的に配置することで生産性にレバレッジをかけていく。

 メンバーシップ型で雇用された人材(主にマネジメント・リーダー)とジョブをベースに雇用された人材が調和・活躍するというのが「双日版ジョブ型」であると考えている。30年を見据え、会社としての生産性向上によって企業価値の向上を実現していきたい。社内外の人材を機動的かつ柔軟に活用できる仕組みを構築することで、生産性の追求を図りたい。

橋本様② 更新
 

 ◎さいごに(まとめ)
・一般論として言われる「ジョブ型」雇用の真似ではなく、未来からのバックキャスティングにより、中長期的な視点で会社の目指す方向性に符合した人事制度や雇用のあり方を追求していきたい
・人材をはじめとする無形資産がどのように会社の成長につながるのか、具体的な事例を増やし、分かりやすいストーリーで伝えることで、市場の共感に繋がっていくことが理想
・人事は、経営戦略・事業戦略との連動を常に意識し、「管理」から「伴走・支援」へ変えることで、社員の自立と自律を促す「戦略実行パートナー」としての役割を果たすべき
・そのためには、経営や事業現場との「対話」が重要であり、そこから生まれる「共感」により人事施策の実行性が高まる

■テーマ講演②

 ジョブ型雇用における活躍人材の見分け方
~ データに基づいた科学的手法と採用や育成への活用の仕方 ~

越智様①
 
越智 道夫 氏(ミイダス株式会社 執行役員/CMO)
大学卒業後、日本の化粧品メーカーを経て、ロレアル、ユニリーバ、資生堂でブランドマネージャーを歴任。約20年の化粧品業界におけるマーケティングやブランドマネジメント経験の後、レノボ・ジャパンにて、LenovoとNECの2つのブランドのマーケティングを統括。ブランドマネジメントやマーケティングにおいて「企業組織を動かす」必要性を感じ、現在はHRテック企業のミイダス株式会社にて現職。「活躍人材の採用」や「成長する組織作り」「チームビルディング」などを組み合わせたセミナーを開催。

 様々な企業においてジョブ型雇用で営業やマーケティングを経験してきた立場から、ジョブ型雇用を先導する“できる人事部”とはどのようなものかを話し、事業に貢献する戦略人事についてのアイデアも伝える、と越智氏は冒頭述べ講演を開始。

 ◎ジョブ型雇用の課題(今までの採用手法ってどうなの?)
中途採用においては、スキルで選んだとしても活躍するとは限らない。ほぼ同じ営業スキルを持っていても必要な資質は企業ごとに異なる。採用手法で有力なのは、実務試験/構造化面接/コンピテンシー(優れた成果を創出する個人の能力・行動特性)診断である、というデータがある。職務経験年数や学歴は見極めの基準としては弱い。まずは分析して人材について深く知ることが重要だ。

 キャリア・スキル/コンピテンシー/相性、の3要件を測っていかないといけない。特に後者2つ、コンピテンシーや組織との相性確認については、人事部が現場をしっかりサポートするべき。①自社の特徴を調べる⇒②現場のマネージャーと要件定義をすり合わせる⇒③要件定義にあった人材の見抜き方、の3ステップで活躍予測精度を高めたい。

 自社の特徴を調べる、においては、社風や活躍人材の特徴を「数値化」することが大切だ。数値化すれば他社との比較もできるし、チームメンバーのパーソナリティの整理もできる。数値化するには『さあ、才能に目覚めよう』という書籍で紹介している「ストレングスファインダー」という診断ツールを使う方法がある。

ミイダス様グラフ①
 

 一方ミイダスでは、求職者の強み・思考性・適正が分かる「可能性診断」と、自社で活躍する社員の傾向が分かる「活躍要因診断」を用意している(フィッティング人材分析)。コンピテンシー診断で、パーソナリティやストレス要因が分かり、組織(自社)にどのような思考性を持った社員が多いのかをデータで可視化でき、組織が次に打つべき手を明確化することができる。

 現場のマネージャーと要件定義をすり合わせる、においては、ハイパフォーマー社員の活躍要因として重要な要素を3つ(例=学習欲、適応性、運命思考)に絞り重要視し、現場のマネージャーのマネジメントスタイルも数値化したい。組織で活躍している人材の特徴が分かるので採用の基準にでき、組織全体の特徴もつかめるため、それを組織マネジメントに活用できる。
 
リーダーシップスタイルとフォロワーシップスタイルの要件定義も大切だ。例えば、素直従順型の部下は指示指導型の上司と相性がいい。ミイダスでは、リーダーとフォロワーの相性や上下関係適性も診断により数値化するので人事施策に役立てることができる。ただし、適性診断(アセスメント)は自己申告型であり、時には嘘もある。また、自己内の相対的な特徴であり他人との比較ではないところも弱点。

 コンピテンシー診断の結果は、スキルや実力を正確に表しているわけではないことに注意。そこで、ミイダスは認知バイアス=意思決定場面で無意識に入り込む思考の癖の強さを測ることができる「バイアス診断ゲーム」アプリを日本で初めて開発し、活躍予測精度を高めている。自分や組織の持つ“リスク許容度”“目的思考”などの認知バイアスの強さをバイアス診断ゲームで知り、コントロールできれば仕事の質が向上する。また、活躍人材の採用や、「生産性向上」教育にも役立つ。

ミイダス認知バイアスゲーム
 

 要件定義にあった人材の見抜き方。このステップでは、面接で聞く質問を社内ですり合わせする。実施するのは、採用のミスマッチと機会損失(本来採用すべき人材の取りこぼし)を防ぐための「構造化面接」。構造化面接とは、自社の採用要件を明確にしたうえで、あらかじめ質問項目とその質問への回答に対する評価基準を決めておき、それに沿って面接を実施していく手法。質問集を作るのに時間がかかるため、なるべく早く取りかかることが肝要だ。ミイダスには採用基準のブレを無くす、構造化面接の質問集が揃っている。
 
◎ミイダスが「ジョブ型雇用」に向く理由(まとめ)
 独自の可能性診断で採用のミスマッチを減らす中途採用サービス「ミイダス」。面接だけで決めず、コンピテンシー診断やバイアス診断ゲーム、構造化面接など複数のアセスメント手法の合わせ技で予測精度を高める。可能性診断は心理学や機械学習のドクターが社員として在籍する関連会社の「HRサイエンス研究所」が開発している。

 効果としては、ミイダスを使い営業担当を新たに採用した結果、生産性が3倍に/離職率が半減/組織へのエンゲージメント20ポイント向上といった実績がある。また、タクシー会社や機械メーカーが、コンピテンシー診断に基づき従来とはまったく違うタイプの人材を採用した結果、採用できた人数および活躍人材が増えた例もある。

越智様②
 

 独自の科学的な診断⇒独自の採用手法⇒育成サポート(タレントマネジメント、活躍要因診断や組織サーベイ含む)というフローで企業や組織に寄り添い、定額制でジョブ型雇用に対応するミイダス。ミイダスを使いスピーディ&低コストで採用業務のアップデートを。

■テーマ講演③

 ジョブ型人事制度導入の実際
~ ケースで学ぶ ジョブ型人事制度のタイプ別導入方法と、落とし穴回避術 ~

新井さん①
 
新井 杏里氏(株式会社リブ・コンサルティング チーフコンサルタント)
京都大学経済学部卒業後、国内の大手コンサルティング会社を経て2012年に株式会社リブ・コンサルティングに入社。様々な業界に対する人事制度構築、教育研修制度構築、組織風土改革、女性活躍推進、営業力強化など幅広いテーマでのコンサルティング実績を持つ。特に人事評価制度の構築・導入においては、数千名の大企業から数十名規模のベンチャー企業までのコンサルティング経験をもとに、各企業の事業と組織の成長を牽引する人事制度を柔軟に提案する。また、クライアント向けコンサルティング業務と並行して自社内の人事評価制度の改定と運用も担当しており、運用サイドの目線も取り入れた仕組み作りの支援を行う。

 ◎「ジョブ型」注目の背景
 ジョブ型の雇用・人事制度は、エンジニアの獲得競争激化/リモートワーク利用の急増/過去に導入した「役割等級」の見直しなどが進み注目されて普及が加速してきた。特に2015年頃からのVUCA※適応期に入ってからは、予測不可能な時代への対応のために専門職のジョブ型雇用が増加した。近年は日系大手企業の国内社員で、エンジニア以外や非管理職においても、ジョブ型の導入・拡大が加速している。
※VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

 新入社員・若手社員の意識の変化も見られる。希望以外の部署、勤務地に配属された場合、異動希望を出す/仕事をしながら転職を考える/とりあえず退職をする、と回答した割合が過半数という調査データもある。

 今後のキャリア形成パターンとしては、①専門職型 ②ポータブルスキル獲得型 ③環境選択型(居心地、ビジョン共感、働きやすさ) ④やりがい追求型(企業、副業、パラレルキャリア含む)、がある。従来型パターンでは、⑤企業内ジェネラリスト型 ⑥企業内専門職型 ⑦独立・自律型(専門職、企業、フリーランス)。自分の会社・組織は今後どのタイプの人材を引き付けたいのか? をしっかり考える必要がある。

リブコン資料①
 

 ◎「ジョブ型」導入の実際
 ジョブ型【雇用】【人事制度】について。雇用は、個別の「職務」(職種・ポジション・業務内容)に対する雇用条件を提示し、必要な人材を採用する方法。人事制度は、職務に基づいて等級や報酬を決める制度だ。大手企業では、前者は20~30%、後者は役割等級も含めると70~80%が導入済み。とはいえ、ジョブ型という言葉で表現されていても、採用/等級/報酬/ジョブディスクリプションにおいて、その実態は様々である。

 ジョブ型の報酬体系においては「職務」に対してあらかじめ報酬を決める。ジョブ型か従来のメンバーシップ型か、そのハイブリッド型でいくのか、は、人材獲得スタイルと採用・ローテーションのスタイルを鑑みつつ決めていくべき。外部環境~経営理念~事業戦略~組織戦略~ジョブ型の導入理由まで、一貫性のあるストーリーを描きステップを踏んで導入検討をしなければならない。

リブコン資料②
 

 検討ステップは、事業上の強みを確認する⇒組織変革の全体像を描く⇒現場エンパワーメントプランを練る⇒リスクを想定し対策を検討する⇒制度とオペレーションを構築する、の5段階である。

 ◎「ジョブ型」導入のパターンと落とし穴
ジョブ型を導入にするにあたっては、「事業成長率(社員増加の速度)」の高低と、「社外からの即戦力獲得を重視するか社内育成を重視するか」、のマトリクスにより大きく4パターンに分けられる。それぞれ、報酬体系も異なってくるし、状況の変化によって随時マトリクス(ゾーン)の移行も実際にある。

リブコン資料③
 

 ジョブ型導入には「落とし穴」もある。例えば組織ケア、自社内育成を重視する成長企業(パターンA)の場合、大量採用・大量離職のサイクルにはまってしまったり、ジョブ型とメンバーシップ型のいいとこ取りを目指した結果、人材への投資が膨らんでしまう、といった陥穽におちいることがある。

 落とし穴回避術としては、パターンAの場合、能力(スキル)レベルに対するグレードと、役割(ジョブ)レベルに対するグレードを併用し、キャリア面談の仕組みとも連動させて自律的な能力・役割の獲得を促す方法がある。また、ジョブ型との相性が良さそうな業種・職種においてあえて「能力ベースの等級」を選択し、腰を落ち着けて成長できる環境を魅力として若手優秀人材を確保する例もある。

新井さん②
 

 不確実な未来への柔軟な対応力を培うために、企業は柔軟な人材獲得を行い、個人は自律的なキャリア構築を目指す。双方のニーズを満たすジョブ型でなくてはならない。どこを、どのくらいジョブ型にするか? その結果、どんな人がどのように活躍できる組織にしたいのか=何のためのジョブ型か? を考えたい。

■特別講演②

 ジョブ型雇用の本質とは
~ 当事者意識、自発的行動を引き出す、少数精鋭チームの創り方 ~

ピョートル様①
 
ピョートル・フェリクス・グジバチ氏
(プロノイア・グループ株式会社 代表取締役)
ポーランド出身。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。モルガン・スタンレーを経て、Googleで人材開発、組織開発、リーダーシップ開発に従事。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。16年にHRテクノロノジー企業モティファイを共同創立し、20年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。22年からGA technologies社外取締役に就任。

 好奇心を持ちましょう。集中しましょう。そうすると生産性が上がります! と、ピョートル氏は講演の口火を切った。そして以下の質問に答えてほしい、と提示。

(1)私は難度が高く学びの多い仕事を好んで引き受けます
(2)私は新しい能力を開発する機会を常に探しています
(3)高い技術や知識レベルが必要とされる仕事を好みます
(4)人は皆、自分自身を大きく変えることができると思っています

 マネジメントは「役割」。社員・メンバーの好き嫌いや性格に感情やバイアスを抱くことなく、常に彼らが最高のパフォーマンスを発揮できる状態を提供することがシゴトだ。

 新しい世界を作る、本質的な問いを考察・議論しよう。『パラダイムシフト』を意識しよう。私たちはどこから来て、どこへ向かうのか。“MIND YOUR LANGUAGE”自分の発言の裏にある意図を意識しようと指摘した。

 なぜ正解は間違っているか? 正しいと思っても疑え。私たちにとっての“常識”=均衡のとれた仕組み/価格は価値で決まる/経済的合理性、以上はすべてバイアス(偏向・先入観)だ。なぜなら、例えば価格は価値ではなく“価値観”で決まるものであるからだ。問題は解決の糸口であり、解決はまた問題なのだ。私たちは個別の存在であると同時に、全体の一部でもある。WE ARE APART,AND A PART.

ピョートル様②
 

 そして、「働くこと」の意味について言及。あなたにとって「仕事」とは? 何のために働くのか。遊び? 成長機会? お金のため? 自己実現? ステータス? 考えよう。それぞれの時代や世界には通訳不可能なストラクチャー(構造)が存在する。あなたにとって「生きる意味」とは何だろうか? 組織のパラダイムシフトを阻むバイアスは何だろう? 「価値あること」とは何だろう? 組織の「なくしたいパラダイム」「達したいパラダイム」「想像したいパラダイム」は何ですか?
新しいやり方を素早く学習する=Learnも大切だが、学びほぐす(時代遅れのやり方を忘れる)=Un-Learnも必要不可欠。時価総額10億ドル規模に育つスタートアップは、一件愚かなアイデア/まず(最初に)マネタイズしない/新しい行動パターンをつくる/競争が激しい飽和市場に参入/経験がない創立者による、といった特徴を持つと事例を示した。

 経営する企業のカタチは物作り⇒仕組み作りに、仕事の性質は強欲⇒利他に、仕事のあり方は自前主義⇒他社他組織と協業に、仕事のあり方はKPI⇒OKR※に、従業員との関わりは社畜待遇⇒エンプロイエクスペリエンスに、主義は計画主義⇒学習主義に、そしてプレイングマネージャー⇒ポートフォリオマネージャーに、それぞれ変わった。

※Objective Key Result=達成目標(Objectives)と、目標の達成度を測る主要な成果(Key Results)を設定することによって、企業やチーム、個人が全力で同じ重要課題に取り組めるようになる目標管理手法

 勤勉さ/服従/知能による生産経済・ナレージエコノミー⇒情熱/創造性/率先によるクリエイティブエコノミー“WORK3.0”になったのである。

 流行り物には要注意。人事の流行り物についても然りだ。要は、メンバーが担う業務や達成すべき明確な目標が、フィードバック(1on1、週報)やコーチングでチームの目標・戦略と連携されているかどうかだ。その上に部門の目標・戦略があり、事業戦略や目標があり、頂上に企業のビジョン・ミッションがある。

ピョートル様資料③
 

 従来の社会構造がコロナ禍により崩れ、自分自身で決める必要性が出てきている。自分自身の価値観をしっかり見極めるべき。優先順位は仕事なのか家族なのか、頑張って働いて老後に備えるのか働くことと自由を行き来するのか、娯楽のスタイルは人と接するのかテクノロジーで遊ぶのか、学び方は学校に通うのか冒険するのか……。個人のキャリアと業務パフォーマンスを両立させるべき。

 自己認識を深める7つの質問
(1)あなたは仕事を通じて何を得たいですか?
(2)どうしてそれを得ることが大切なのですか(3回問う)
(3)何をもって「いい仕事をした」と言えるでしょうか?
(4)どうして今の仕事を選んだ(選んでいる)のですか?
(5)去年の仕事は、今年の仕事にどう繋がっているでしょうか?
(6)あなたの一番の強みはなんでしょうか?

 再掲になるが、マネジメントは「役割」。社員・メンバーの好き嫌いや性格に感情やバイアスを抱くことなく、常に彼らが最高のパフォーマンスを発揮できる状態を提供することがシゴトと改めて指摘。

ピョートル様資料④
 

 マネジメントに必須の4つのポイントは、建設的なチーム作り/方向性・戦略/個人のサポート/チームの代表、である。真に効果的なチーム(生産性の高いチーム)はどうやって生まれるか? 自分自身も参加したGoogleの「チームアリストテレス・プロジェクト」の研究によると、物議を醸すかもしれないが、以下の要素はチームの生産性には大きく影響しない。
・働く場所/在職期間/外交的な性格のメンバー/先任順位/チーム規模/合意に基づく意思決定/個人のパフォーマンス/仕事量

 チーム成功への鍵は
・「心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ-)」が高いこと
・「信頼性」が高いこと
・「構造」が「明瞭明確」であること(人事マターである目標設定と評価基準がしっかりしていることも含む)
・仕事に「意味」を感じていること
・社会に対して「影響」を与えていること

 上から順に重要性が高いと考える。生産性の高いチームには必ず「心理的安全性」がある。従業員が社内でネガティブなプレッシャーを受けず自分らしくいられると感じる状態。あるいは、同僚とお互いを高め合える関係をもち、建設的な意見の対立が推奨される状態──。「メンバーシップ型か、ジョブ型か」の議論も大事だが、これらの問いや本質を考えることが最も大切だ。

 どう感じていますか?
私は自分の職場で自分らしくいられます
私が新しいことにチャレンジすることに、上司や同僚は協力的です
職場で周囲がネガティブなプレッシャーをかけることはありません
チーム内の意思決定は、全員の意見が尊重されます

 上記は生産性に大いに影響を与える。本質的な問いかけをぜひ続けてほしい。会社は何のためにあるか、何のために生きているか、何のために働いているかという思索にもつながる。

 ピョートル氏の熱いメッセージの余韻を残しながら本カンファレンスは締めくくられた。

2022年8月23日(火) オンラインにて開催・配信

source : 文藝春秋 メディア事業局