お二人への冷たい眼差しは日本社会の不安の裏返しではないか
保阪 二月に山折さんが発表した論考「皇太子殿下、ご退位なさいませ」(「新潮45」三月号)は、そのタイトルの激しさもあって、話題を呼びました。山折さんご自身には、どんな反響が寄せられていますか。
山折 編集部のつけたタイトルが刺激的だったせいか、新聞に雑誌の広告が掲載されると、その日のうちから、いろいろな方々にご心配の言葉をいただきました。その点は感謝しているのですが、ただ記事を読んでいただければ、みなさん納得してくれて、それほど大きな問題にはならないだろうと思ってはいました。
保阪 いや、非常に踏み込んだ問題提起だったと思います。皇太子が皇位継承権を放棄するという事態は、少なくとも近代には例がありません。しかも皇室典範の改正も必要となる。いわば近代皇室の在り方を根本から考え直そうという真摯な問題意識を、私は感じました。
山折 少し意外だったのは、提言の内容より、皇室を正面から議論すること自体への懸念というか、批判が多かったことです。右から左から、世代の新旧を問わず、「お前、ちょっと踏み込み過ぎではないか」というニュアンスの批判が多かったようにおもいますね。好意的に読んでくれた方でも、「よくまあ、ここまで書いたな」という。皇室はいまだにうっすらとしたタブーの対象なのだと改めて感じました。
保阪 あえて「退位」に言及するにあたって、山折さんには、現在の皇室に対して相当の危機意識があったのではないかと思うのですが。
山折 私があの論考を書いた理由はじつに単純なもので、つらいお立場にいらっしゃる皇太子殿下を、どうにかしてお助けできないかと思ったのです。殿下は雅子妃とご結婚されるときに、「僕が一生、全力でお守りします」と言われた。次の天皇となる存在が、個人としての強い思いを表明する。これは、これまでになかった。いわば皇太子の「人間宣言」だったと思います。この率直でさわやかな言葉は国民の心を打ったと思います。日本の皇室、天皇制は新しい段階に入ったのだなと、このとき私は思いました。
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source : 文藝春秋 2013年06月号