404通もの投稿をいただいた「うらやましい死に方2023」。
紙の誌面には惜しくも掲載できなかった五木寛之さんによる最終候補31篇を、電子版限定で公開します。
ループ橋の下には (矢部陽子 東京都世田谷区 85歳)
私の夫の死は令和3年9月1日、本当に突然何の前ぶれもないまま訪れました。場所は札幌、夏の間約40日間、酷暑の東京を離れ少々贅沢とも思われる北の国北海道札幌の長期滞在型ホテルの一室で起こりました。目を閉じる10分程度前でしたでしょうか、前夜元気に“おやすみ”と云って休んだベッドの中から64年間きき慣れた“おいおい陽子”の声から死の前奏曲が始まりました。
おかしな夢をみた、聞いてくれ。僕はループ橋を登ってゆく、ループ橋の下には君が待っている。約束の時間がすぎているのにどうしても降りられない、増々高い所へ登ってゆく。そんな夢を二度たった今みた。それから10分もしなかったと思います、主人は目をとじたまゝ再び私の声に反応することもなく死への階段を昇り続け帰らぬ人となりました。
前日は一緒に3時間を越える散歩をし、昼食には大好きなうなぎをおいしそうに食べ、夕食にはとれたての新鮮なさんまを大根おろしと共においしそうに食べた夫がどうしても、どうしても突然私の前から姿を消してしまったのか納得できないのです。救急車で運ばれた札幌医大病院では先生方がつくせる全ての医療を施こして下さいましたが残念ながら再び目を開けることもありませんでした。死亡診断書には直接死因として“心タンポナーデ”と印されており今も彼の死が信じられないまま私の誕生日に彼から送られた大切なバッグの中にしまわれています。
目を閉じるほんの数分前迄いつもと変らぬ会話を交わしていた人が何を聞いても答えられない世界へ去って行ったのが不思議な夢の世界の話しであったように思えてなりません。死とはこんなにも簡単に訪れるものかどうか、どうしても理解出来ないまゝ過ぎゆく時を彼との、楽しかった日々をなつかしく想いつゝいづれ訪れる私の最後の時へと歩む私です。人々は90才を越え痛みも苦しさも知らず、何より家族にも何の迷惑もかけずこの世を去った主人をうらやましいとさえ云いますがどうしても余りにも突然すぎるおそった別れに1年過ぎた今も戸惑いと納得しがたい気持が昼夜を問わず襲ってくる日々です。
死後の世界を教えてください (工藤誠子 福岡県福岡市 80歳)
人間は死後の世界があると信じているから全世界で宗教が現在も続いている。宗教の無い民族もいない。私は大学で哲学の時間に「人間は努力だけでは善くならない、良き人に恵まれて良き人間になれる」と聞いて、現在も忘れず80歳を生きている。幸い、その先生と年賀状のやり取りを40年間続けて来た。
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