月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。「けっして頭は良くないが、腹落ちしたあとは粘り強い」鈍牛に春は来るか?
安倍晋三が暗殺されて半年――首相の岸田文雄はすべてが裏目に出て、政権はまさに冬景色の中にある。
だが、凍てつく状況の中で、岸田は予想外の粘り腰を見せている。まずは防衛費増額にともなう増税へのこだわり。そして、NHK会長人事である。優柔不断と揶揄されてきた岸田だが、「理解するのに人より時間がかかるが、こうと思い定めたときの忍耐力はある」(首相周辺)との評価も出てきた。
昨年12月。自民党政調会長の萩生田光一をはじめとする元安倍側近らは2023〜27年度の防衛費で「総額43兆円」という数字を掲げた。これを気前よく丸呑みした岸田の決断に、萩生田らは当初は喜んだ。だが、それもつかの間、岸田は財源として「増税」に舵を切ったのだ。
「世論の反発は必至、4月の統一地方選を考えれば最悪のタイミング」(自民党幹部)との懸念が広がり、党税制調査会での議論は荒れに荒れた。
だが、岸田の決意は固い。「側近で政務秘書官の嶋田隆が財政健全派だからとみる向きもあるが、実際は嶋田の意向に引っ張られたのではなく、首相が自ら考えを重ねた結果、増税すると腹を決めた。かなり手ごわい」(官邸筋)。
防衛費をめぐっては、連立を組む公明党内にも異変を生じさせている。支持母体の創価学会は反戦平和を掲げ、増税にも強いアレルギーを示す。学会員からの反発をダブルで食らう岸田の方針に、公明党代表の山口那津男も頭を抱える。山口は悩んだ末、「防衛費43兆円を認める代わりに、子育て支援に1000億円を要求せよ」との指示を公明党税調会長の西田実仁に下した。だが、西田は「冗談じゃない。そんなことが通るわけがない」と不平を漏らし、党内に亀裂が広がっている。
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source : 文藝春秋 2023年2月号