羽生世代で「藤井キラー」。天才2人を熟知するベテランが徹底分析
デビュー以来、トップ棋士への階段を破竹の勢いで駆け上がってきた藤井聡太さんが、将棋界の八大タイトルのうち、遂に六冠を獲得しました。これは、1996年に「七冠制覇」を成し遂げた羽生善治九段に次ぐ、史上2人目の快挙です。さらに現在は名人戦に挑戦中で、これを制すれば羽生さんに並ぶ七冠。タイトルの数は2015年からひとつ増えて8個になっていますので、このまま藤井さんが「八冠制覇」すれば、羽生さんを超える前人未踏の偉業を達成することになります。
羽生さんと藤井さんの2人が、歴史に名を残す天才棋士であることは疑いようがありません。では、この2人の天才がタイトル戦の大舞台でぶつかり合ったら、一体どんな戦いになるのか。誰しもが待ち望んだこの黄金カードが、今年の王将戦でようやく実現しました。強豪ひしめく挑戦者決定リーグを全勝で突破した羽生さんが、タイトル保持者の藤井さんに七番勝負を挑んだのです。
この王将戦は、羽生さんのタイトル獲得通算100期という、これまた前人未踏の大記録が懸かっていたこともあり、ニュースでも大きく取り上げられました。
タイトル戦では、タイトル保持者と挑戦者が5回から7回の番勝負を戦います。藤井さんは、たとえ1回負けたとしても、それを決して次に引きずらない。これまで番勝負で負け越したことはありません。そんな藤井さんに、50歳を過ぎた羽生さんがどこまで迫ることができるか、気にしておられた方も多いでしょう。
一般的に、将棋は年齢を重ねると力が衰えると言われています。先の手を読み進める思考力が落ち、妥協も出てくる。正直に申し上げると、私も藤井さんにかなりの分があると思っていました。
しかし、蓋を開けてみれば、どの対局も最後までギリギリの攻防が続く大激戦。交互に勝ち星をつけるシーソーゲームとなりました。結果こそ、藤井さんの4勝2敗と、羽生さんのタイトル奪取は叶いませんでしたが、羽生さんの天才ぶりをあらためて見せつけられたと感じます。
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source : 文藝春秋 2023年6月号