禍と恵みと

日本再生 第45回

立花 隆 ジャーナリスト
ニュース 社会 歴史

 この巻頭随筆を書きだして二回目の「ひこばえ」で紹介した青木奈緒さん(曾祖父が幸田露伴、祖母が幸田文、母が青木玉という文筆家系の末裔)から手紙が届いた。近刊の「婦人之友」二〇一四年十二月号の座談会「災害の世紀」に、ご主人の堀内成郎さんが出ていることを案内するものだった。堀内さんは元建設省の技官で防災の仕事に長年たずさわってきた方だ(現・(株)パスコ)。これが不思議に面白い座談会だった。

 今年は(今年もまたというべきかもしれないが)、日本は災害の多い年だった。八月には広島で未曾有の土砂災害があり(死傷者百十八人、全壊家屋百三十三棟)、九月には木曾の御嶽山が噴火して多数の犠牲者を出した。十一月には長野県のフォッサ・マグナ地帯(白馬村など。糸魚川‒静岡構造線)で地震があり、阿蘇山は現に噴火中だ(十一月末)。

 これらの一連の大きな地殻変動的現象をまとめて、日本は東日本大震災以来「(江戸時代から数えて)六回目の地震活動期に入った」とする学者もあらわれている(歴史地震研究会・磯田道史氏など)。何をもってそれ以前の五回の活動期とするかというと、一六一〇年頃の慶長期、一七〇〇年頃の元禄宝永期、一八五五年頃の安政期、一八九〇年頃の明治中期、それに一九四五年頃の南海地震の時期などがそれに当る。

 このなかで注目されるのは、元禄宝永期である。一七〇三年の元禄地震(マグニチュード八・二)は小田原城下を壊滅させ、津波は品川まで押し寄せた。それに四年遅れで続いた宝永地震(マグニチュード八・六)はさらに激しいもので、東海地震、東南海地震、南海地震が連鎖反応的に起きたものと考えられ、東海道、伊勢湾周辺、紀伊半島で合わせて二万人以上の命を奪った。それだけではすまず、四十九日後には、平安時代の大噴火以後おとなしくしていた(小噴火はあったが)富士山が大爆発を起した。それはプリニー式と呼ばれる大噴火で、イタリアのベスビオ火山で起り、ポンペイの町を火山灰と火砕流、噴石等の噴出物で埋めつくしたのと同じタイプの噴火だった。

 噴火は一七〇七年の十二月十六日にはじまり、この年の終りまで二週間つづいた。火山灰は江戸にまでとどき、昼間でも街を暗くした。火山灰は白から黒に色を変えながら断続的に降りつづけ江戸市街で、二~四センチの厚さに達した。今でも東京の地層をちょっと深く掘ると、その火山灰層に出会う。江戸でそうだったのだから、もっと富士山に近い地域は大変だった。田畑も、家屋も厚さ数メートルにおよぶ高熱の灰、砂、軽石、噴石などの噴出物でおおわれ、家屋の多くが倒壊焼失した。田畑は耕作不能になり、深刻な飢饉を招いた。その救済は藩の手にあまり、結局幕府が乗り出し、富士山周辺一帯を幕府の直轄領として、幕府自ら組織的救済を行った。その費用は全国の大名から石高百石につき金二両の割で集めた四十八万両をもってした(実際の救済には十六万両しか使わず、残りはそれまでにたまっていた幕府の財政赤字を埋めるのに流用されたという)。

 地球はある意味で生きた連続体だから、どこかでマグニチュード八とか九といった大地震が起ると、それに刺激された地殻変動が数年がかりであちこちに起ると考えられる。それは地震の隣接領域の火山の噴火につながることもある。つまり、このところあちこちで起きている噴火(含西之島の噴火)やフォッサマグナ帯の地震は東日本大震災と微妙にリンクした現象と考えられている。

 その延長上にはこの先、地震では南海トラフ大地震的な現象が誘発されないとも限らないし、富士山噴火だって宝永噴火からすでに三百年たつのだから、次の噴火があってもおかしくない時期にきていると考えられる(富士山大噴火は四百年に一度程度起るといわれている)。周辺自治体の中にはハザードマップの整備とか避難訓練の実施などまではじめているところもある。

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source : 文藝春秋 2015年1月号

genre : ニュース 社会 歴史