御嶽山の噴火は、五十七人という戦後最大の犠牲者を出したあと小康状態に入った。このまま安定状態に入るのか、それともまた火を噴くのか、いまのところは何ともいえない。かつて火山は、活火山、休火山、死火山に分けられるとされてきたが、最近ではそのような分類そのものが根本的に誤りとされている。火山というのは、千年単位に及ぶ長い長い活動休止期間があっても、いつ何どき再活発化するかわからないものなのだ。実際、御嶽山にしてからが、ながらく休火山視されてきたのに、一九七九年、突然爆発(有史以来初噴火)している。そのあと九一年、二〇〇七年にも噴火したが、それ以後はそれほど活発に活動してきたわけではない。今回、九月二十七日の大爆発の約二週間前に、火山性地震が急に一日五十二回にふえ、その翌日また八十五回にも及んだので、当局は警告を出すか、入山規制をするか考えはじめた。ところがそこで地震がパタッと止まってしまったので、何もしないで様子見しているうちに、あの爆発が起きた。「あのとき空振りでもいいから、本当に警告を発しておけば…」と、後知恵でものをいう人も結構いるようだが、空振りしたらしたで、多くの人から批判、非難が押し寄せることは必至である。それを恐れて、警告を発することを手びかえたことが、今回の反省点かもしれないと、藤井敏嗣・火山噴火予知連絡会長は事後に感想をもらしていた。そしてさらに、自嘲的にこう付け加えた。「でも予知連とはいっても、火山の噴火はわからないことが多すぎて、我々にできるのはせいぜいこの程度というのが、正直のところです」
地震予知も、だいぶ昔からかけ声ばかり威勢よくかけては、巨額の資金を注ぎこんではきたが、予知らしい予知は当分できそうもないということがわかってきた。事情は噴火も同じなのだ。そもそも火山噴火がどのようにして起るのか、その具体的なプロセスがよくわかっていない。それがわからないから、噴火の前兆現象としてどのようなものがあるのかもわからない。そこがわからないから予知のしようがないのだ。
日本は宿命的に火山国であり地震国である。そもそも日本列島は、巨大な四つのプレート(太平洋プレート、ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート)が合流した地点の上にできた島である。プレートの境界近傍がそのまま火山帯になっており、同時に地震の巣になっているから地震や噴火から逃れようがないのだ。
日本には世界の活火山の約一〇%があり、世界の大地震の約一〇%が起きている。噴火と地震はいつも日本の防災のトップに来ざるをえない。
いちおう日本では百十の活火山を常時ウオッチすべき火山として選定し、活動度によってABCのランクを付けている。特に四十七の火山については重点的な観測研究対象としている。日本人なら誰でも知っているような有名火山は、だいたいこのA(13火山)、B(36火山)リストの中に入っている。それで安心かというと、決して安心ではないということが今回の御嶽山大災害でわかった。御嶽山もちゃんとこのBリストに入っていて重点観測対象になっていたのだ。だが、重点観測は何の役にも立たなかった。重点観測しているといっても、やっていることは、地震計、傾斜計、空振計、GPS、磁力計、重力計、歪計といった通常の地球物理学的計測装置で周辺環境をモニターしていますというだけのことで、それで特別のことがわかるわけではないのだ(火山性微動、山体が妙にふくらみを増していることなどはわかる)。
では、今後とも、日本では、御嶽山で起きたようなことが、どこの活火山でも起き得る(突然の噴火と噴石によって登山者が打撃を受ける、火山灰、火山ガスの直撃を受ける)のだと考えなければならないのだろうか。
そうではあるまい。実はこの十数年来、火山の観測に全く新しい新兵器が登場して、従来の火山学者が想像もしなかったような手段で、火山の内部情報が得られるようになってきたのだ。それは、宇宙線をX線のように使って、火山の内部をX線写真を撮るように透視してしまうという方法である。
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source : 文藝春秋 2014年12月号