無念の安倍談話、決着の舞台裏

赤坂太郎

ニュース 政治

月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。「村山談話」を上書きするという宿願は、なぜ叶わなかったのか

 8月14日午後6時。首相官邸の1階にある会見場は、張り詰めた空気に包まれていた。海外メディアも生中継しているその場で、安倍は戦後70年談話をこう切り出した。

「8月は、私たち日本人にしばし立ち止まることを求めます。今は遠い過去なのだとしても、過ぎ去った歴史に思いを致すことを求めます」

 安倍は25分もかけて、演台横に備え付けられた左右のプロンプターに交互に目をやりながら、静かな口調で談話を読み上げた。だが、これまで会見への準備を怠らない安倍には珍しく、6カ所も談話を読み間違えた。4月29日の米議会演説でみられたような高揚感も、全く感じられない。

 村山談話からの脱却にあれほど意欲を示していた安倍。過去の植民地支配と侵略を認めた20年前の村山談話を、どこまで「上書き」するかに、国内外の注目が集まっていた。しかし、村山談話で用いられた4つのキーワード「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「おわび」は次々と読み上げられ、結局は全てを踏襲する結果となった。

 これらのキーワードを使う際に引用や間接話法を駆使したこと、「子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と謝罪外交の終わりを提示したことが、精一杯の「安倍カラー」だった。欧米諸国は歓迎し、反発が予想された中国、韓国ですら抑制的な反応だった。これが、当たり障りのない談話となったことの証左だろう。

 内外が注目した談話だけに、内容が事前に漏れないように細心の注意が払われた。メディアへの談話の事前配布は勿論なかった。さらには、談話を閣議決定した臨時閣議ですら、ある閣僚は内閣官房副長官・世耕弘成が読み上げることで内容を知り、封筒に入った談話本文を見ることなく署名を促されたというほどの念の入れようだった。

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source : 文藝春秋 2015年10月号

genre : ニュース 政治