忖度なしで本質に切りこむ「マスコミの帝王」は大きな財産を遺した
皇居を間近に望む東京會舘の一室。中央に置かれた10メートル以上のテーブルを挟んで、選考委員が議論を続ける。佐藤優氏が論理の建て方に疑義を呈したかと思えば、梯久美子氏はファクトを超えた著者の思いに悩ましさを語る。その様子を見て後藤正治氏は著者の長所をやさしく称える。第54回大宅壮一ノンフィクション賞選考会の風景だ。
筆者もこの選考会に参加して数回になるが、毎回強い緊張に襲われる。過去の受賞作には『マッハの恐怖』(柳田邦男、1972)、『テロルの決算』(沢木耕太郎、1979)などあり、ノンフィクションにおいてもっとも権威ある賞になっている。
大宅賞はその授賞によって書き手の人生を大きく変える。筆者自身その栄誉を受けた一人だが、その重さを理解しているからこそ、選考会は真剣な議論になる。1行をめぐって激しい討論になることもある。それはノンフィクションという分野をどう維持していくかという議論にもつながっているからだ。
大宅賞は1970年、文藝春秋社内の議論から生まれた。文春には文学賞の芥川賞と直木賞がある。だが、当時、勢いのあったノンフィクションという分野にはまだ賞がなかった。そこで大宅壮一の名を借りて、ノンフィクション賞を設置してはどうかという案があがった。
大宅壮一は評論家、ジャーナリストで、1900年に大阪に生まれ、1970年11月に没した。戦前戦後と新聞、雑誌、ラジオ、テレビで活動し、「マスコミの帝王」との異名もとった存在だ。
だが、なぜ大宅壮一だったのか。それは「文藝春秋」が大きく変革した1950年代、志向性がもっとも近かったのが大宅だったからだ。
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source : 文藝春秋 2023年7月号