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【イベントレポート】「デジタル変革の本質」に迫る ~目的達成の探求と、価値連鎖の創出に向けて~

 

■開催趣旨

DXの本質とは何なのか。業務効率化や新たなビジネスモデルの創出、組織構造変革などの目的を掲げ、全社一丸となってリソースを集中し新たな価値を創造することが、市場の競争優位性を獲得していくためには不可欠となっている。

DXの成果を最大限に引き出すために企業のリーダーがまず取り組むべきことは、本質を理解し目的を明確に示し、実現のためにどのような手段を取るべきかについて、分かりやすく言語化していくこと。それが今、求められている。

日々テクノロジーが進化していく中、企業のリーダーは変えること変えないこと、既存事業と新規事業の最適な融合、あるべき姿の実現に向け全社に変革の風を巻き起こす推進力、変革の定着・行動変容の推進など、試行錯誤を繰り返しながら最適解を見つけるべく格闘をしている。

そこで、本カンファレンスでは、「デジタル変革の本質に迫る - 目的達成の探求と、価値連鎖の創出に向けて」をテーマに、DXで何を実現したいのか、どのようなプロセスが最適なのかについて、ビジネスリーダーの皆様に登壇いただき考察を試みた。変革を進めるうえでの失敗の経験、成功への実践知を共有し、さらなる価値連鎖の着火点とできればと考える。


■オープニングスピーチ

国家戦略としてのDX

  

 

衆議院議員

自民党情報調査局長

平 将明氏

家業の大田市場青果仲卸会社社長、社団法人東京青年会議所理事長、経済産業省産業構造審議会基本政策部会委員などを経て、2005年自民党衆議院東京4区の公募に応募、公認候補に選出され立候補、初当選、現在6期目。内閣府副大臣(IT政策・サイバーセキュリティ戦略・クールジャパン・地域創生・国家戦略特区等担当)、経済産業大臣政務官、衆議院環境委員会委員長、自民党副幹事長、情報調査局長、自民党広報本部ネットメディア局長、デジタル社会推進本部 本部長代理、NFT政策検討プロジェクトチーム座長 等 歴任。現在、自民党情報調査局長、広報本部副本部長 兼 ネットメディア局長、デジタル社会推進本部本部長代理 兼 web3プロジェクトチーム座長 兼 AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム座長、新しい資本主義実行本部 経済成長戦略委員会幹事長 自民党東京都連政調会長。

実際に政策をつくるローメーカーとしての認識をお話したい。“国家のDX”には、行政/経済/外交の三つの視点がある。行政=「デジタルガバメント」においては、クラウド化やマイナンバーカード・マイナポータルの活用でさまざまな障壁を無くし、情報共有や行政サービス実施の迅速化、自然災害やパンデミックに対応できる強靱化を行う取組を行っている。

経済=「データドリブンエコノミー」では、データが付加価値を生み出していく。自動車やスマートフォンなどのあらゆる工業製品がIoT(モノのインターネット)端末化し、データのやり取りや集積、分析などにより付加価値を生み出していく。日本に強みのあるアナログ・コンテンツの価値を、デジタルを使って最大化していくことも大切だ。

外交=「データフリーフロー・ウイズ・トラスト(DFFT)」。セキュリティを確保した上でいかに世界中にデータを自由に流通させ、活用するかのルール作りも重要だ。その他「ウエブ3」「ブロックチェーン」「ファンデーションモデル/AI(チャットGPTが代表)」とキーワードはいろいろある。これらがどのような影響を及ぼしていくか、しっかり踏まえ見極めてさまざまな戦略を構築していかなければならない。

経営陣、経営企画の皆様は、最新の情報をキャッチアップして、それらが自社のポテンシャルをどう最大化するのかを考えて欲しい。我々政治家は、日本のポテンシャルをどう最大化するのかを規制や税システムのデザインとともに考え、政策を作っていく。


■基調講演

インターネットの先にある世界

~新しい日本の役割と責任~

  

 

慶應義塾大学

教授

村井 純氏

工学博士。1984年日本初のネットワーク間接続「JUNET」を設立。1988年インターネットに関する研究コンソーシアム「WIDEプロジェクト」を発足させ、インターネット網の整備、普及に尽力。初期インターネットを、日本語をはじめとする多言語対応へと導く。内閣官房参与、デジタル庁顧問、他各省庁委員会主査等を多数務め、国際学会等でも活動。2013年ISOCの選ぶ「インターネットの殿堂(パイオニア部門)」入りを果たす。「日本のインターネットの父」として知られる。

◎インターネット文明とデジタル化

慶應義塾の創設者である福澤諭吉は、1866年に上梓した『西洋事情』の中で「四海は一家、五族は兄弟。蒸汽は人を濟け(たすけ)、電氣は信を傳える」と説いた。これはまさにインターネット文明のある現代社会のこと。1866年時点でこの視点で世界を捉え、テクノロジーの発展を考えていたのである。

インターネット文明により、人類が初めて手にする“グローバル社会”が実現した。いまや文化、言語、法律、裁判所、警察、そして国……を一つのサイバー空間として擁している。あたりまえの存在となったインターネットやDXを大前提として、デジタル社会や国際社会を考えなくてはならない

2000年には世界の全人口の6%しかインターネットを使っていなかったが、22年6月時点では69%が使うようになった。東工大Dlabが2019年に予測した「未来シナリオ」では、2030~40年のシナリオ(例=ほとんどの仕事はオンライン化され、旅をしながら働くことができるようになる/おうち完結生活)が、この2~3年のうちにほぼ全て実現している。人・社会・制度が超高速で進み始めており、もはやスローダウンすることはない

標準化」がデジタル社会では非常に重要だ。共通のプラットフォームを持っていると、コストが下がり投資がほぼ不要になり、そこにイノベーションが生まれる。どのようなアイデアがどうやってこのデジタル社会とプラットフォームの上で動かせるのか、そこから何を導くことができ、どのようなサービスをどれだけのスケールの人に届けられるのか、を考えるべき。

  

 

 

例えばネット上のビデオ(映像)配信ビジネスは、標準化の恩恵で「いい映画をつくり、課金をする」ことだけ考えればよいビジネスになった。コストが低いので、知恵と勇気があればいいのである。

◎メディアと広告/Webによるアプローチ

日本の媒体別の広告費を見ると、インターネットが右肩上がりで2018年に地上波テレビを抜き、いまや圧倒的シェアを占める。ただし、広告出稿のシステムが複雑になりすぎて透明性が欠け、ステークホルダーの補足が困難になってきている。まんがの海賊版サイトができたり、そこに公的機関の広告が出る、フェイクニュースが世界中に流れる……といった問題も発生している。日本も、官民で協力し、世界レベルで力を合わせて問題解決をすることが求められる。

技術的な面では、例えば米国NYT(ニューヨークタイムス)が「信頼できるサーバー」運営組織の提案を行った。World Wide Web Consortium (W3C)の中でも、「Googleのクッキーレスエコシステム開発行動とその背景」などが提案・報告されている。日本では、OP(オリジネーター・プロファイル)技術による資格認証を導入し、運用型広告市場に良質メディア&広告主と悪質メディア&広告主を識別する動きがある。正しく使われ、評価され、実績を積む。そうしたメディア作りが各国において、もちろんインターネット利用者が多く国際的責任のある日本においても重要である。

◎デジタルインフラ・インテリジェンス

デジタルのインフラストラクチャーと、そこに流れるデータとそのデータを使ったAI。それらが今後どう発展するか。DX後のビジネス、産業・経済やそれらのルール作りが必要になってくる。地球全体がつながっているので、光速といえども長距離通信のタイムラグは生じる。金融や医療分野はもちろん、広告のデータでさえ時間差のない「リアルタイム」が一層求められる

低軌道衛星を含む衛星通信を使い、宇宙から地表までのインターネット接続とその速度改善をすることが今後ますます重要になる。日本の携帯電話接続エリアはじつは国土全体を地図で俯瞰するとまだ6割くらいだ。地上の災害の影響を受けず、宇宙で独立して脱炭素かつ自立可能な宇宙インフラであり、光技術で超低消費電力・超高速通信・高セキュアな通信網である「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の構築が待たれる。

国土交通省などの「デジタル田園都市構想」や東京都の「つながる東京」はもちろん、宇宙の「ARTEMIS計画」「Interplanetary Network」などにおいて、高度な光通信技術やファクトリーオートメーション技術を持つ日本と日本の産業が果たせる役割は大きい

◎AIを先導する医療インテリジェンス

AIを考察し取り組むにあたり、健康と医療の領域は、日本がかなりの先導性を発揮できると考える。「遠隔手術ガイドライン」がすでに日本にはあり、世界ではロボット手術の進化も著しい。「Surgical intelligence」の活用、手術から得られるデジタルデータの利用(手術操作の定量的評価・分析、医療経営改善など)は非常に重要なテーマだ。

「Public Core Internet」を守り、日本が提唱している「データフリーフロー・ウイズ・トラスト(DFFT)」含めデジタルデータのインテリジェンスがどうやって生きるのか?については、日本の産業が先導して提案をしていける

日本は遅れていると思われがちだが、米国のGAFAMでは数多くの日本人エースエンジニアが活躍している。また、データインテリジェンスをビジネスにして儲けているのは確かに米国の産業だが、健康・医療・宇宙の民間利用など今後顕在化するであろうブルーオーシャンでは、コア技術を持っている日本は世界に対して大きな貢献ができる。日本は「周回遅れの先頭ランナー」なのである。

  

 

Digital Ab Use(デジタルの悪用・乱用)を防ぐために、サイバーセキュリティには真剣に取り組まないといけない。悪用・乱用の対義語であるDigital Proper Use(デジタルの正しい利用)、Digital Ethical Use(デジタルの善用)においては、高度な技術と規律・文化を持つ日本に世界は大きな期待を寄せる。

DXの本質は、グローバルな空間・アーキテクチャーの中で日本をどうやって安全な国にするのか、安全保障面で守るのか、だ。技術や文化、社会の中での多様なコミュニティーの力をすでに要素として持っている日本は、国際社会において大きな役割と責任があり、DXにおいて嘱望されている。


■特別講演

味の素グループのASV経営

事業モデル変革、社会変革を通じたWell-beingへの貢献

  

 

味の素株式会社

取締役 代表執行役副社長(Chief Innovation Officer(CIO)、研究開発統括)

白神 浩氏

京都大学大学院工学研究科工業化学修士課程修了。1986年味の素(株)入社。93年工学博士取得。98年日本化学会技術進歩賞を受賞。2009年味の素(株)アミノサイエンス (AS) 事業開発部長(新事業開発)。13年アルテア社代表取締役会長兼社長 (米サンディエゴ)。19年味の素㈱常務執行役員 AS 副事業本部長 バイオファイン研究所長。21年執行役専務 Chief Innovation Officer 兼 R&D 統括。22年6月より現職。事業モデル変革、R&D、M&A、CVC、知財などを担当。

◎味の素グループのASV経営

創業以来「アミノ酸のはたらき」をベースに世界に事業を拡大、展開している味の素。売上高は約1兆1500億円、従業員数は約3万4000人である。「中期ASV※経営 2030ロードマップ」では、パーパスを「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する」に進化させた。コーポレートスローガンは「Eat Well, Live Well.」である。
※Ajinomoto Group Creating Shared Value

ASV経営の柱は「無形資産の強化」。“志”をもった人材が、生活者・顧客の現場に深く寄り添ってアミノサイエンスで未来に向けたイノベーションを共創していくために、無形資産への投資を実施していく。志に共感する社内外の仲間が集い、対話を通じて志の醸成と共感、多様性と挑戦を促進することで未来に向けたイノベーションを共創し、従業員の働きがい向上(ASVの創出)を通じて、人材資産の強化を行う。

◎味の素グループのDXの取り組み(DX1.0/2.0)

DX(デジタルトランスフォーメーション)については、全社オペレーション変革(1.0)、エコシステム変革(2.0)、事業モデル変革(3.0)、社会変革(4.0)とステージを設定し、事業本部横断型のワンチームとして協働・推進している。

DX1.0では、ベースとしてオペレーショナル・エクセレンス(OE)を導入。優れたオペレーション推進のための5要件を顧客起点・全体最適視点で設定し、各現場のオペレーション・プロセスの最適化を推進、定着を図った。また、グループ全従業員との対話、ASVアワードを開催。毎年のエンゲージメントサーベイによりカテゴリーごとの機会と課題を可視化している。

変化を促進する「ビジネスDX人材」の育成も推進し、全従業員がITリテラシーを具備することを目指した。Smart R&B(研究・事業開発におけるDX戦略)による新価値創造、イノベーション創出にもAI活用による開発期間短縮など、取り組み実績も上げている。様々なデータを高度に活用して工場の自動化を推進。安定生産や省人化も実現した。

DX2.0では、ステークホルダーとともに、事業のDXを通じて社会変革を促すようなエコシステム変革を展開。各種データの蓄積・統合・活用を可能とするデータ基盤の再構築、整備を通じて全社データマネジメント・プラットフォーム(DMP)を進化。出荷データに加え、市場データや倉出データをDMPに統合し、実需と市場在庫を把握することで生産調整による最適化を実現する。

グローバルにDMPを整備し、海外法人含む全社の在庫データを可視化。海外拠点ごとに最適な安全在庫を設定し、棚卸資産の削減による最適化を実現。サプライチェーン・マネジメントも他社との協業で改善を図っている。

◎Well-being実現に向けた、事業モデル変革(DX3.0)による成長領域の取り組み

持続的成長は、(1)重点6事業の確実な成長 (2)4つの成長領域で事業モデル変革(BMX)し成長をドライブ (3)継続的に次世代事業を創造し、未来の成長への布石を打つ、の3階層を2050年に向けて段階的に実施し積み上げる戦略でもたらす。

  

 

2030年以降の、地球・社会のメガトレンドを整理したPoF(Picture of the Future)から、味の素グループが実現を目指す世界、提供したい社会価値を設定する。2030年に向けて味の素グループの強みを活かせる分野として、提供・共創したい価値に基づきヘルスケア/フードウェルネス/ICT/グリーンの4つを成長領域とした。

事業モデル変革(BMX)により、過去10年にアミノサイエンス事業は成長を遂げてきた。市場のイノベーションを見通したエコシステム&新事業モデル構築の「型」(電材・ヘルスケアが成功事例)を全社で展開する。コンシューマーフード事業など、アミノサイエンスを活かしたイノベーションで、おいしさ⇒栄養⇒健康⇒サステナビリティへと、生み出す価値を進化させる。また、アミノ酸の生理機能研究に基づく機能性表示食品の展開も行う。

食への価値観や情報・選択肢が多様化する中、多様性・持続性を尊重した食習慣と食の新しい価値観が共存する「食のDX」が求められている。当社では食のDXに向けたプラットフォーム構築や具体的な取り組みが進む。血液中のアミノ酸バランスで健康状態を評価するアミノインデックス、栄養プロファイリングシステム(ANPS)、「100年健脳手帳」による健脳ライフ提案、弘前大学との共同研究などや、健康とウェルビーイング実現のための新事業・出資も多数展開している。食のDXによる食体験ジャーニーを通じて、健康でウェルビーイングな自己実現に貢献していく

  

 

ICT領域では、次世代「味の素ビルドアップフィルム」開発、用途拡大や将来の新システムへのエコシステム参画を実施。マテリアル・インフォマティクスを活用した高速開発システムにより、ICT向け材料の高機能化にも貢献する。

グリーン領域では、サステナブルバイオサイクルを構築し、カーボンニュートラルなグリーンアミノ酸の製造や、フードシステム構築、環境に影響しない農業やタンパク質生産の実現を目指す。地球的な視野に立った食と健康への貢献のため、増加する世界人口に伴うタンパク質クライシスや食料需給の課題を、グリーンフード事業を通して解決する。各国・地域ごとの栄養課題・食文化に基づく健康でおいしい献立、商品を展開する。

事業モデル変革(DX3.0)を推進し、今後も、アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献していきたい。


■課題解決講演(2)

経営企画がリードするDX推進とデータドリブン経営

  

 

株式会社ログラス

経営戦略室/イベントマーケティング責任者/元カスタマーサクセス責任者

矢納 弘貴氏

明治大学法学部卒業。新卒で(株)セディナ(現:SMBCファイナンスサービス株式会社)へ入社し、コールセンター、債権回収業務を経て、経営企画本部にて経営管理業務に従事。その後、エン・ジャパン(株)に参画し、予算編成などの経営企画領域を中心に従事。経営企画・人事領域を担うコーポレート組織と新規事業企画に奔走。2020年より(株)ログラスにてカスタマーサクセスの立ち上げを担当。

◎経営企画が鍵を握る日本企業DX

ログラスは「良い景気を作ろう。」というミッションを掲げて活動しているベンダー企業。企業価値を向上する経営管理クラウド「Loglass」を開発・運営している。

2018年に公開された経済産業省のDXレポートによると、日本は2025年までにDXを実現しなければ、年間12兆円の経済的損失が生じるとされている。レガシーな仕組みの維持コストが拡大し、成長投資が不可能になる。各国と比較しても日本企業はICT投資が少なく、デジタル変革に成功したケースも少ない。

また、『総務省 令和3年版 情報通信白書』によれば、デジタル競争力ランキングにおける我が国の順位は、他国と比較しても特に「人材」に関する順位が低下傾向にあり、2020年の順位では46位だ。IT業務をアウトソースしていた日本において、デジタル人材を抱える企業は少ない。DX推進の成功には、縦割りの個別最適ではなく、全社最適や行動変容を伴う変革が重要。社内にデジタル人材を持つ組織が希少であるからこそ、全社的・機能横断的な「経営企画部門」が重要な役割を果たす

しかし、企業のDXをリードする経営企画のリソースは、予算策定・予実管理といった経営企画の単純作業により逼迫している。クラウドテクノロジーの活用で、人間の知恵と時間の拡張を成功させ、売上と生産性の向上や、閃きの提示などの付加価値の高い業務、そして効率化にとどまらない“業務の高度化”に集中するべきだ。

昨今の経営データの大半は、未だに表計算ソフトデータの転記・加工によるものだ。営業(CRM/SFA)と経理(会計ソフト)のデータベースと、経営分析(BIツール)のデータベース間に、非データベース化の経営管理・表計算ソフトが挟まり、「データの断絶」が生じる

  

 

経営管理は関係者が多く、その工数の多くが数値収集や加工、他部署との連携に充てられるため、マネジメントコストが高い。財務会計とは異なり、明確なルールが存在しない経営管理は、表計算ソフトで“車輪の再発明”をしてしまい、属人化が進む。例えば、多段階・他部署・多拠点との数値のやり取りが発生し、その頻度は毎日~四半期ごとに行われ、業務負荷が大きくなっている商社、といった企業が多々ある。

経営管理クラウド「Loglass」は、構造的・技術的問題を最高のテクノロジーとモデルで解決。Product Visionである「MAKE NEW DIRECTION」を体現し、世界中の企業にベストプラクティスを届ける。会計ソフトの実績データや表計算ソフトの計画データを全て一元管理し、財務レポートやBIツールに迅速にアウトプットし、経営の意志決定に有効利用できる(※動画デモンストレーションあり)。

  

 

Loglassは経営データの断絶を解消し、経営企画主体のデータドリブン経営を実現する。


■課題解決講演(3)

人的資本経営時代の「生産性の高い働き方」

~時間や場所にとらわれないPerformance Work~

  

 

株式会社 HQ

代表取締役CEO

坂本 祥二氏

京都大学総合人間学部卒業後、モルガン・スタンレーにてM&Aアドバイザリー及び資金調達業務、その後、カーライル・グループにてバイアウト投資業務に従事。2015年3月、(株)LITALICOに入社。取締役CFOとしてマザーズ上場、東証一部市場変更や新規事業の立ち上げ、拡大等を経て、(株)HQを創業。

◎コロナ禍を経ての働き方の変遷とこれから

HQは、働き方/ハイブリッドワーク支援の専門企業。幅広い企業の働き方戦略推進を支援している。

コロナ禍の下、強制リモートワーク(2020年)⇒リモートワークの制度構築(21年)⇒ハイブリッドワークへの進化(22年)と働き方は変遷してきた。そして、23年は「Performance Work 生産性の高い働き方」へ各社が向かっていると考える。

ビジネスモデル、文化、職種が違えば最適な働き方は違う。手段⇒目的/働き方の問題解決⇒生産性の最大化/社会全体で一律最善解⇒自社独自の最適解、へと議論が移った。(1)自社にとって必要な人材を確保・維持する (2)人材の生産性を最大化する、ことが肝要だ。

Performance Work(PW)のために、(1)関連では、株式会社ヨコオ(製造業)は社員食堂の新設やリモートワーク環境整備を行った。wevnal(ソフトウェア開発業)は、エンジニア向けの制度や福利厚生の充実を行った。(1)(2)を実現するためのポイントは、重要職務内容/社員属性/組織文化/人材市場、を考慮しつつ、PWへの投資⇒必要な人材の獲得維持⇒経営課題の解決⇒投資資源の獲得、という良い循環を回すことだ。

◎生産性高い働き方を実現するための3つのポイント

生産性向上のための3つのポイントは、個のアウトプット/組織レバレッジ/環境設定。各要素分解における留意点は、一つの要素に固執しない/三つ全ての課題を把握する/解決可能な課題から取り組む、である。

例えば組織レバレッジにおいては、「コロナ前と同じコミュニケーション施策は効かない」と認識すべき。BUYSELL(リユース事業)は、エンジニア向けオフィス投資×在宅環境投資を行った。当社株式会社HQは、オンボーディングランチや勉強会などオフィスに来たくなる施策を作り、出社を促した。

環境設定においては、実態はブラックボックスだが実は大きな改善余地がある。当社の調査でも長時間働くには適していない“悲惨な環境”が6割を占めることが判明。仕事の環境整備を社員任せにすることによる機会損失や経済インパクトは甚大で、公平性/個別最適性/報酬扱い・課税の問題もあり、大きな経営課題である。

  

 

Performance Workが社員の幸せと企業の成長をつくる。「生産性最大化」という目的達成のための、自社に合った働き方方針や組織戦略について考えるきっかけになったなら幸いである。


■特別講演

DXの本質に迫る、武器としての経済学の活用

~ 専門家と非専門家が交差する点で生まれるゲームチェンジ ~

  

 

大阪大学大学院経済学研究科

教授

安田 洋祐氏

エコノミクスデザイン共同創業者。2002年に東京大学経済学部を卒業。最優秀卒業論文に与えられる大内兵衛賞を受賞し経済学部卒業生総代となる。米プリンストン大学へ留学して07年にPh.D. を取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て、14年より現職。専門はマーケットデザイン、ゲーム理論。American Economic Reviewをはじめ、国際的な経済学術誌に論文を多数発表。新聞・雑誌・オンライン媒体への寄稿(計250本以上)やテレビ番組への出演(計500回以上)を通じて情報発信に取り組む。朝日新聞論壇委員会、政府系審議会(環境省・経済産業省・財務省など計15委員会)の委員などを歴任。

◎進化する「武器としての経済学」

例えば、経済学ではこんなことができる。

ESGの鍵は非財務価値の可視化!(社会的インパクトなど、様々なデータを時系列数値化する研究を活用し、指標化。数値化すると成長が明確になる)

インターネットは、データの宝庫!(インターネット関連企業のデータをいかに活用するか。これからのスタートアップは、データサイエンスで成長が変わる)

評価点数に活用できる研究も存在し、また、Web3.0に活用できる経済学も膨大にある。

プライシング、値付け(による利益アップ)にも経済学は応用できる。“価格弾力性”などの調査やデータを整備し分析すれば、適切な利益の上がるプライスが設定でき、業績改善につながる。

◎立ちすくむ国家/不安な個人

1997年の実質賃金を100とすると、2020年の日本は89.1。実は賃金が下がっていた。平成時代の、低賃金⇒設備投資減少⇒労働の限界生産性も減少⇒更なる賃下げ、という「負のスパイラル」が要因だ。

令和に入り、高賃金⇒設備投資増加⇒労働の限界生産性も増加⇒更なる賃上げ、という「正のスパイラル」に逆転するかもしれない。ただし、定型化された仕事はAI・ロボットに徐々に置き換わっていく(DX)。DX進展の鍵は「人への投資」である。人のリスキリングは必須だ。

  

 

日本はデジタル化で圧倒的に遅れている。世界デジタル競争力ランキング2022年版(IMD)によると、日本は63カ国の対象国・地域の中で総合29位(21年は28位)。ビッグデータの活用と分析/企業の機敏性/国際経験の各項は、日本は最下位である。

経営層がDXを知らない(情報の非対称性)/上司・マネジメント陣が食わず嫌い(現状維持バイアス)/新しいことをやるとカドが立つからやらない(“ブラック”均衡)などが理由で、働き方改革や女性の活躍が進まないのも同じ理由だ。しかし、コロナ禍での制約がDXを進めるきっかけになるかもしれない。

ブラック均衡を生むのは「コーディネーション(協調)の失敗」である。例えば、キーボードのキー配列は業界標準が確立しており、タイプしやすい配列であるかどうかは疑わしいものの長らく使われ続けている。人や企業は、回りと同じ選択をする方が得、と考え、様々な同調行動を取る。

ブラック均衡を打破するには、空気を読まない多様な人材を採用する(プレイヤーが変わるとゲームチェンジが起こる!)、経営陣/上司のコミントメント(会社が本気で○○を推奨するシグナルに!)といった方策が考えられる。

◎ゲームチェンジ~AI(LLM)と専門家の活用が鍵!

日本は今後、(1)経験と勘(玉石混交、再現性が乏しい) (2)学知、専門家(不変の論理、納得感がある) (3)データ分析(再現性、わかりやすさがある)、を三位一体で活用し、成長や利益に繋げていくべきだ。

そして、AI(特にLLM=チャットGPTに代表される大規模言語モデル)が、(1)~(3)を補助・補強するゲームチェンジャーになる可能性がある。例えば、まずはカジュアルにAIに聞き、判断させてみる。出てきたそれなりに説得力のある回答について、信頼できるか、正しいかについて専門家にアドバイスを仰ぐ──といったプロセス、仮説検証や裏付け取りが今後は有用になるかもしれない。

   

 

AIが使いやすくなった今、日本の企業・組織は、デジタル変革の取り組みが非常に遅れているからこそAIを活用して“リープフロッグ=蛙跳び”のカタチで一気にDXを進められるチャンスがあるのではないだろうか。

  

 

 2023年4月25日(火) オンラインLIVE配信

source : 文藝春秋 メディア事業局