幸せでなければ生きる意味がない

老化は治療できるか 最終回

河合 香織 ノンフィクション作家
ライフ サイエンス 医療 ヘルス

不老長寿で人生は「苦行」になってしまうのか?

 これまで連載で見てきた最新の研究によれば、人間の最大寿命である120歳まで健康に生きられる未来は、それほど遠くないうちにやってくるだろう。それが実現されれば、現在の平均寿命より30年以上長く生きられることとなる。

 しかし、それは果たして「幸せ」な時間になるのだろうか。

河合香織(本人提供)

「なんとかしてくれよ! ああ神様……。ぼくは47だ。60まで生きるとして、まだ13年ある。長いなあ! この13年をどう生きればいいんだ? 何をして、何でこの歳月を埋めればいいんだ?」(チェーホフ『ワーニャ伯父さん』浦雅春訳)

 アカデミー賞を受賞した村上春樹原作の映画「ドライブ・マイ・カー」でも引用されたこの有名な台詞で、ワーニャは60まで生きるのは長いと言ったが、120年となればその倍となる。さて、何をして、どうやってこの歳月を埋めればいいのか。

“Happy People Live Longer”

 何だか自己啓発本のようなタイトルだが、実は2011年に科学誌「Science」に掲載された科学論文のタイトルである。この論文によれば、幸せな人は幸せでない人に比べて寿命が14%も長いという。だとすれば、幸せかどうかは、日々の生活の豊かさを超えて、生命を維持する上でも重要となってくるのかもしれない。

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source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : ライフ サイエンス 医療 ヘルス