著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、西村宏堂さん(アーティスト・僧侶)です。
私の母は、自分が「やりたい!」と思ったことをしっかり貫く人。ピアニストの母は、昔から仏教に興味があったそうで、お寺の住職である父と結婚してお寺に住むことになりました。すると母は「お寺に住むのに、仏教のことを知らずに過ごすのはイヤ」と言って、通信教育で単位を取り、修行に参加して僧侶の資格を取得したんです。
そんな母は一人息子の私にも「私の言うことよりも、こうちゃんが正しいと思うことを優先なさい」という教育方針。昔から何かを押し付けられたことは一度もありません。小さい頃の私はディズニープリンセスと、スカートを穿くことが大好き。母から借りたスカートを穿き「こうちゃん女の子よ」と舞う私を、否定することなく見守ってくれていました。
でも、その陰では人知れず、自分の教育が悪いのではないかと随分悩んだようです。教育センターに行き、息子が性別違和ではないかと、カウンセラーに相談したそう。二十四歳の時に同性愛者であることを両親にカミングアウトしたときには、母がこれまで悩んでいたことが繋がったのでしょう、「納得がいったわ」とすぐに受け入れてくれました。
そういえば、私が小学生の頃に親戚のお姉さんからマニキュアを買ってもらったことがあったんですが、母から「そんなのを塗る大人になって欲しくないな」と言われたんです。何も押し付けない母ですが、“女性らしい”姿はやはり嫌なのかなと、ずっと引っかかっていた。大人になってから聞いてみると、「爪が呼吸できなくて健康に悪いと思ったから」と一言。母は自分の結婚式で初めてマニキュアを塗った際に、爪が息苦しく感じたそうです。ピアニストならではの考えかもしれませんね。男らしさとか女らしさではなく、私の健康を考えて言ってくれていた。そんなところも母らしいです。
自分のやりたいことを貫き、そして私のやりたいことをしっかり分かってくれる母。私がメイクアップアーティストになるときも、僧侶になるときも、いつも味方になって応援してくれました。母はいまもピアノが大好きで毎日何時間も弾いていたり、ディズニーが好きで毎年シーとランドへ交互に行ったり(笑)。いつまでも自分のやりたいことを、ずっとやり続けてほしい。今度は私が、母の味方となって応援していきたいです。
虎は皮を、人は死して口癖を残す。
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