貢納品から健康食品へ
「ものと人間の文化史」は、1968年から刊行を開始し、今日までに190書目・218冊(1書目が2〜3冊にわたることがあるため)を世に問うている息の長いシリーズだ。さまざまな「もの」について根源から問い直し、「もの」とのかかわりにおいて営々と築かれてきた暮らしの具体相を通じて歴史を捉え直す――というのが刊行の趣旨である。「船」「化粧」「はきもの」など、「あら、知りたかったのよ」と膝を打つテーマのほか、「猿」「熊」「松」「紅花」などの動植物系、「もののけ」「つぶて」などの、ちょっと見当をつけにくい対象にいたるまで、実に多くの「もの」の来歴があきらかにされてきた。なかでも食べ物は、とりあげられる頻度が高い部類だが、最新刊の『寒天』には「うわ、そうきたか」と意表を突かれた。あんみつの中で透明な輝きを放ち、固体とも液体ともつかない不思議な食感で訴えてくる寒天について、この機会にぜひ親しみを深めたい。
テングサ属のマクサ等の海藻を煮詰めて(煮熟〔しゃじゅく〕)漉し、冷まして固めたのがトコロテンだ(これを天突きで突いて麺状にし、酢醤油や黒蜜をかけて食べる)。さらに、トコロテンを凍結、融解、乾燥(フリーズドライ)させたものが寒天となる。テングサは個別の海藻名ではなく、「属」「科」「目」という、より上位の分類カテゴリーであるとか、トコロテンにさらに工程を加えて、ようやく寒天ができるなど、最初から知らなかったことばかり。
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source : 文藝春秋 2023年11月号