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【イベントレポート】超実践「リスキリング」 ~“5年間で1兆円”の衝撃-高まる「動画内製化」「DX」スキルと「生成AI」への期待と学び直しの本質~

■企画趣旨

岸田文雄総理は、2022年10月の所信表明演説にて、リスキリングのための支援制度を総合政策の中に盛り込み、人への投資に5年間で1兆円を投じると表明しました。こうした追い風を受け、国内におけるリスキリングはさらに活発化していくと考えられ、社員のリスキリングを支援することが、企業には求められています。

また、社会環境に目を向けると、2025年には団塊の世代が75歳以上に入り、2030年には総人口の約1/3が高齢者となり、644万人の働き手が不足することが予測されています。企業や組織は適切な人材を確保しにくくなり、競争力が低下する可能性が高く、既存の労働力に新しいスキルを習得させ、多様な職種に適応できるようにリスキリングへの投資を加速させていくことが重要となっています。

リスキリングはDXやGXなど社会の変革によって生まれる新しい仕事に適応するためのスキルと思われがちですが、デジタルだけに限らず、市場のニーズがあるところに学びの対象は存在し、スキルを習得することで活躍の場は大きな広がりを見せる可能性があります。

こうした中、近年、急成長をしている分野の一つに企業による動画活用があります。SNSや動画配信サービスの普及により、情報発信や教育方法も進化し、サービス訴求やブランディング、採用活動にも動画を活用する企業が増えています。さらには動画スキルを内製化することで、コストの削減、コンテンツの最適化、さらには社員同士のコミュニケーションも増え、リスキリングを起点とした意識改革への期待も高まっています。

本カンファレンスでは、 「超実践『リスキリング』」をテーマに、企業価値向上の大本命として注目を集める「DXスキル」「生成AIスキル」や「動画内製化スキル」にフォーカスを当て、実際にリスキリングを強化することで獲得できるビジネス上の優位性や成果について、事例などをもとに検証をできればと存じます。

■基調講演

“学習する組織”の創り方
~ リスキリングを実践するためのアンラーン、そしてリフレクション ~

一般財団法人クマヒラセキュリティ財団代表理事
昭和女子大学キャリアカレッジ 学院長
熊平 美香氏

ハーバード大学経営大学院でMBAを取得後、日本マクドナルド創業者・藤田田氏の元で新規事業立ち上げに携わる。独立し、GEの「学習する組織」のリーダー養成プログラム開発者と協働し、コンサルティング活動を開始。2014年、昭和女子大学キャリアカレッジ学院長に就任。女性の社会での活躍や企業の働き方改革を支援する。15年、21世紀学び研究所を設立し、企業と共にニッポンの「学ぶ力」を育てる取り組みを開始。経済産業省が18年に改定した社会人基礎力の中に、リフレクションを盛り込む提案を行った。子どもの貧困問題の解決に挑戦するLearning For All、社会起業家を育むASHOKA等のNPO活動にも参画。文部科学省中央教育審議会委員、経済産業省『未来の教室』とEdTech研究会委員、ハーバードビジネススクールグローバルアドバイザリーボードメンバー、(株)NITTAN社外取締役、キユーピー社外監査役、などを務める。NHK Eテレ「プロのプロセス」に出演、振り返りのしかたを紹介。

◎学習する組織/リフレクション

目的に向けて効果的に行動するために集団としての「意識」と「能力」を継続的に高め、伸ばし続ける組織が「学習する組織」である。現状に止まることなく、効果的な行動によりありたい姿(ビジョン、目的、パーパス準拠)に変わる、そのための方法論はいくつかある。

学習する組織を広めるための活動の前提となるのが、リフレクション=自己を客観的かつ批判的に振り返る行為であり、未来を創造する力だ。物事に対して、これまで通りのやり方やものの見方をそのまま適応するのではなく、批判的スタンスで、経験から学び、考え行動することが可能になる。

前例のある時代はPDCAを回せば成果は上がった。しかし、今日のように前例のない時代においては、従来のやり方が通用せず成功の法則が分からないため「AARモデル」で成果を出すしかない。Anticipation(見通し・仮説)⇒Action(行動)⇒Reflection(内省・振り返り)のサイクルである。

反省ではなく、リフレクションが大切。経験には価値があり、学びの可視化と活用により未来への糧とすることができる。

成功の鍵はまず、「学習機敏性」だ。素早く学び、AARサイクルを回して未知の問題に応用していく学習機敏性を高めなければならない。次に「アンラーン」。学びほぐしのことで、過去の成功体験などに基づき形成されたものの見方や行動様式をアップデートし、新しい世界に移行しなければならない。さらに「ダブルループ・ラーニング」。問題に対して、既存の目的や前提そのものを疑い、それらも含めて軌道修正を行うことである(※具体事例紹介あり)。

◎学習する組織の特徴

集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織の特徴を、5つ紹介する。

(1)一人ひとりの内発的動機(指示命令型から自律型へ)
イノベーションは、指示命令に漫然と従う集団からは生まれない。一人ひとりがビジョンや戦略を“自分ごと”にする集団に変わる必要がある。

そのためには「クリエイティブ・テンション」を持たなければならない。ビジョン(ありたい姿)と現状とのギャップを埋めようとする強い内発的動機のことで、クリエイティブ・テンションが高まるとそれが動機の源となり、人はより創造的になる。今後、必要になる主体性は、第三者の意志ではなく自分の意志である。

(2)共有ビジョン(ミッション・ビジョン・バリュー=MVV)
共有ビジョンには、ミッション、ビジョン、価値観が含まれる。何のために存在するのか=Mission/何を実現したいのか=Vision/何を大切にするのか=Valueを、組織の中でしっかり共有しつつ活動していかなければならない。共有ビジョンは、リフレクションと対話を通して組織に浸透し、構成員のクリエイティブ・テンションに基づく行動を通して実現する。

(3)メンタルモデルの理解(推論の梯子を登る)
メンタルモデルとは、一人ひとりがもつ世の中の人や物事に関する前提のことで、経験を通して形成される。事実や経験⇒価値や判断⇒確信⇒判断の尺度形成という梯子を登り、行動・主張、結果につながる。先述のアンラーンを行うためには、過去の成功体験は思い出として心に残し、成功体験により形成されたメンタルモデルを手放して新しい世界に行かなければなければならない。

(4)対話(チーム学習、自分の枠の外に出る力)
対話とは、自己を内省し評価判断を保留にして、他者に共感する聞き方と話し方のこと。評価判断を保留にして多様な世界に共感することで、自分の枠の外に出ることが可能になる。

ディベートでは主張は変えず主張の正当性を証明することが原則。一方、対話では主張は変えていいし、主張を傾聴し相互学習をする。対話の基礎力は、メタ認知、評価判断の保留、傾聴、学習と変容、リアルタイム・リフレクションの5つ。これらは非常に大切な力であり、ぜひ本日知見を持ち帰っていただきたい。

(5)問題解決にもシステム思考(氷山モデル)
事象としての課題ではなく、課題の根本原因を理解した上で問題解決に臨みたい。氷山に例えれば、水面上に見えているもの=できごとだけではなく、見えていない水面下にあるもの=時系列パターン/構造/メンタルモデル、もしっかり理解しなければならない。

前例のない時代に成功を手に入れるために、リスキリングを組織の力に変えるために、今挙げた学習する組織の5つの特徴はとても重要だ。

まとめとして、メンタルモデルを分析するフレームワーク、「リフレクションの問い」もぜひ本日お持ち帰りいただきたい。さまざまな気づきが得られるツールである。

■実践講演

動画内製と生成AI活用がもたらす、
ビジュアルコミュニケーション革命と成功の鍵

アドビ株式会社
Video Strategic Business Development Manager
高橋 絵未氏

Webプロダクション・動画メディア・ライブ配信プラットフォームにて、ディレクターとプロデューサーを経験。制作現場から分析やアライアンスまで全般を担当。アドビでは製品戦略部にて、エンタープライズカスタマーの支援および新規市場開発に従事。自身も動画制作によってスキルやキャリアが豊かになった経験から、動画業界に恩返しをすべく活動中。

◎クリエイティブ市場とスキルニーズの変化

クリエイティブコンテンツの需要は、2026年までに22年の5倍以上になる、と当社では予測している。“体験”の価値向上とともに、コンテンツ需要は高まり続け、印刷物から3D、AR(拡張現実)まで、コンテンツフォーマットは多様化。世界レベルでバリエーションは拡大の一途だ。

これに伴い、日本で国内でもクリエイティブスキルのニーズが高まっている。被クリエイティブ職(管理・事務など)の求人要項の「クリエイティブスキル歓迎」の記載が、2010年比で最大4.7倍になり、スキル保持者の給与水準が上昇している。また、すでに半数以上の企業が社内でクリエイティブツールスキル向上のための支援を実施、または実施予定、といった調査結果もある。

特に「動画」「デザイン」へのニーズが高まっている。SNSなどの販促活動や社内外コミュニケーションの効率化(動画マニュアル制作など)のための利用が多い。

当社の映像編集ツール“Adobe Premiere Pro”の最新版はAIによる機能強化・自動化を行っている。動画の需要は今後も上昇が見込まれるが、ツール類の長足の進歩によりYouTube水準の動画制作の工数、使うツールの数や携わる必要のある人数はかなり効率化されている。

◎テクノロジー進化と企業成功事例 動画/デザイン

例えばクレディセゾン様は、YouTubeを新たな販促チャネルに育成。動画は、未経験の社員がリスキリングによりほぼ全てを制作・運用している。自社のビジネスを理解した社員がスキルアップし、直接動画制作を行って会社に還元しているのだ。

ベルーナ様では、紙媒体(カタログ)の制作スタッフが動画制作を習得し、商品購入率が20%UPした例がある。社内には動画スタジオを設けたとのこと。ライドオンエクスプレスグループ(銀の皿)様では、人材教育用の動画コンテンツにより研修参加者が3倍になった例がある。

当社のデザインツール=ユニバーサルクリエイティブツール“Adobe Express”は、2023年に生成AI“Firefly”の機能を組み込んだ。テキストによる簡潔な指示で、さまざまな印象的な効果や要素を静止画や動画に付加することができ、まるで信頼できるデザイナーのサポートを受けるような感覚で、SNSコンテンツやバナー、印刷物、スライド、動画などを制作できる。クリエイティブの可能性を無限に解き放つ存在となっているのだ(デモンストレーション映像あり)。

デジタルツールへの苦手意識を下げながら、販促の選択肢を広げているAdobe Expressユーザー企業は続々と増えている。クリエイティブ×リスキリングで、成功している企業のポイントは以下のようにまとめられる。

■特別講演

三井物産のリスキリング - 総DX戦力化 -

三井物産株式会社
常務執行役員 デジタル総合戦略部長
真野 雄司氏

1986年三井物産入社、日本と米国で化学品営業に従事、その後経営企画部に異動し、2008年全社情報戦略タスクフォースを組成してリーダーを務め、09年初代情報戦略企画室長。その後、化学品事業開発部長、米州本部CAOを務めた後に、16年IR部長。19年4月執行役員となり、同年6月IT推進部長。経営戦略におけるDXとITの統合を提唱し、10月統合により設立されたデジタル総合戦略部長。更にその後、全社に分散していたDX/IT関連組織を全て統合して大規模な組織改編を実施、20年4月に現在のデジタル総合戦略部を組成。「DX総合戦略」を策定し、三井物産グループ全体のデジタルトランスフォーメーション、データドリブン経営やDX人材戦略を推進。23年4月より常務執行役員 デジタル総合戦略部長。

「挑戦と創造」をDNAとして「世界中の未来をつくる」三井物産。中期経営戦略2026では、DXによるグループ経営力の強化、を経営の重要事項の一つとして提示している。

スイスのIMD(国際経営開発研究所)が発表している「世界デジタル競争力ランキング」では、2023年に日本は64ヵ国・地域中総合32位に低下した。順位が特に低位の個別の項目を見ると、デジタル・技術スキルが63位、企業の俊敏性が64位、国際経験が64位とデジタル人材の教育と訓練、経営の俊敏性とその基盤、世界で戦う意思が日本の最重要課題として見て取れる。

また、デルやマッキンゼーからも、「デジタルに対する戦略・ビジョンの不足」「人材の準備不足」ITエンジニアの直接雇用割合の低さ(3割以下)」などが指摘されており、これらが米国に比しての“経営やDXのスピードの遅さ”に繋がっている。

◎4年間の変革の軌跡

当社DXの軌跡は以下のスライドを参照。現在はグループ全体のDXを推進する「デジタル総合戦略部」が担当・牽引している。

当部に組織を統合するにあたり、まずは「わたしたちはデジタルの力で新たな価値を創ります」というパーパスを定めた。そして明確な定量目標を求め、システムではなく価値を創ることを明確にした。また、「わたしたちは、世界有数のデジタル戦略企業への進化をリードする中核組織となります」というビジョンも打ち出し、経営と世界への視座を明確にした。

さらに、バリュー・行動様式として「なぜできないかではなく、どうすればできるかを考える/変わること、変えることを楽しむ/協働し、まだ見ぬ景色を創り出す」など6つを提示した。“Unlock Yourself, Rock the World! ”=自分を解放せよ、そして世界を震撼させよう!(意訳)が当部創設以来のスローガンである。

当社のDX総合戦略のビジョン骨子は“Business Transformation & Innovation with Digital”。その中での本講演のテーマである人材戦略については「総DX戦力化」だ。当社では人材タイプの分類を下記スライドのように行い、“総”つまり全員でDXに取り組み、特に「b」のDXリーダーを務めるDXビジネス人材を内製化している。 

そのための研修プログラム“Mitsui DX Academy”やDX人材認定制度も用意している。また、DXインターンなどの人材採用施策やDXブランディング、認知強化戦略も実施、社内向けの「学ぶ・成長する」サイトも整備している。

◎残すに値する未来

(1)DXによる価値貢献(新価値創出・生産性向上)
・挑戦の加速とスケールアウト、ユーザーセントリック
・圧倒的な生産性(人的制約の打破)

(2)グランドデザイン・ガバナンス
・脱サイロ化と簡素化、標準化、自動化

(3)総DX戦力化
・全社員による主体的なDXの推進

(4)データドリブン経営
・DMP(Data Management Platform)の完成
・OIMO(One Input Multiple Output)2.0

(5)セキュリティ
・グループサイバーセキュリティ原則の完全準拠
・新技術、DXへのサイバーセキュリティ対策

これら(1)~(5)を実行し、社内人材のリスキリングによりDX人材を育成し、当部スローガンである“A Worthy Tomorrow with No Boundaries”=境界のない、残すに値する未来の創造に向けて挑戦を続けていきたい。それが、企業のみならずこの国の俊敏性向上、競争力向上にもつながるはずだ。

2023年11月29日(水) 会場対面・オンライン配信のハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局