2024年1月19日、東京都港区の品川インターシティホールで生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)第1回シンポジウム『国家財政の見える化実現に向けて』が行われた。第2部のパネルディスカッションでは、生団連会長の小川賢太郎氏をはじめ、中林美恵子氏(早稲田大学教授)とモデレーターの新谷学(文藝春秋取締役)の3人の間で、「先の見えない国家財政・・・私たちはどう向き合えばよいか?」というテーマのもと、侃々諤々、白熱した議論が交わされた。
議論の中身は多岐に及んだ。財政再建の捉え方やそれに国民がどう向き合うべきかといった財政に正面から対峙した話題から、中林教授の専門でもあるアメリカと日本の財政の違いなど、会場を埋め尽くした約400人の来場者のもと、熱気のあるディスカッションが繰り広げられた。
「財政は制度と数字が大事。払った税金がどのように使われているのか、国のデータを見てもわからないようでは、大きな問題。予算も単年度主義ではなく、戦略的に投資できる制度が必要だ。税金の使い方を官僚や政府に任せるだけではなく、国民として国の財政を皆が見ていく必要がある」(小川賢太郎・国民生活産業・消費者団体連合会会長、株式会社ゼンショーホールディングス代表取締役会長兼社長)
「日本の財政は相当厳しい。アメリカだとリベラル派は経済成長の見積もりが甘く財政政策も緩和気味になるが、一方で保守派はコンサバな経済成長を見積もって財政を厳しく考える。果たして、いまの日本にそういった政党があるのか……。このままでは、いずれ日本の財政は地雷を踏むことになる」(中林美恵子・早稲田大学教授、元衆議院議員)
「私が『文藝春秋』編集長に就任して真っ先に原稿依頼をしたのが矢野康治財務次官。今の日本にとって財政問題は避けて通れない課題だ。矢野論文を掲載することで日本の財政はこのままでいいのかと一石を投じた。国民的な課題として、開かれた議論をしていくことこそ大事だ」(新谷学・文藝春秋取締役、文藝春秋総局長)
主催する生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)とは、「国民の生活・生命を守る」を目的に2011年に設立された団体である。初代会長はスーパーマーケットなどを展開するライフコーポレーション創業者の清水信次氏で、2011年の東日本大震災の直後に「わが国には経済団体はあれど国民の生活と生命を守る団体は存在しない」と痛感し団体を創設した。
2017年からは外食産業などを展開するゼンショーホールディングスの小川賢太郎氏に会長が引き継がれ、現在では600以上の流通サービスや生活財メーカーといった生活産業と、国民生活の代表である消費者団体やNPO団体などが集っている。国民的な課題について専門的な議論を重ね、政府や行政や政党に向けた提言のほか、国民への情報発信を行なっている。
さて、冒頭のパネルディスカッションではモデレーターの新谷から「この席にこそ玉木さんにいてほしかった!」と惜しまれたのが、国民民主党代表の玉木雄一郎衆議院議員。第1部の講演会では、パネルディスカッション参加の3人と玉木氏が講演。玉木氏は4人の講演者の中では唯一、積極財政論を展開。日本経済の拡大・成長をもとに財政の健全化について自説を披露した。
「コロナを経て日本もデフレからインフレへと変わりつつある。インフレと賃上げで税収は増える。だからこそいまやるべきは減税。いまこそ日本が成長して財政構造を変える千載一遇のチャンスだ。日本経済を元気にすること、そのための予算編成こそ政治の役目なのだ」
いずれにせよ、少子高齢化の中、将来の日本を考えるためには財政についての議論は避けて通ることはできない。3時間余に及んだ講演会とディスカッションで、明るい未来の実現に向けての国家財政の見える化の議論は深まった。
小川会長は言う。
「財政についての本質論が大事。企業は経済の拡大傾向でGDPを上げていき、同時に賃金も上げていかないといけない。それも単年ではなく、今後10年間賃上げしていく覚悟が必要。そうすれば、国民が安心して消費が拡大する。国民が安心しなければ社会は良くなりません」
source : 文藝春秋 メディア事業局