たいせつな何かが姿を現す瞬間
ルシア・ベルリン(1936〜2004)はアメリカの作家。アメリカの読者にとってもそうなじみのない、知る人ぞ知る存在だった。
ところが亡くなった後、彼女の作品を深く愛するリディア・デイヴィスの手で作品集が編まれ、ベストセラーになる。リディア・デイヴィスの文章を読んでベルリンを知ったという翻訳家の岸本佐知子が、その中から24篇を選び翻訳した。
ベルリンの文章は魂に訴える。何の夾雑物もなく、発せられたときの質量のまま、言葉がダイレクトに読む人へと届く。痛みが痛い。
彼女の実人生が短篇の題材となっている。アラスカで生まれ、鉱山技師だった父の仕事の関係で北米の鉱山町を転々とし、チリで過ごしたこともある。結婚と離婚を3回、経験し、シングルマザーとして、高校教師、掃除婦、電話交換手、看護師などをしながら4人の子供を育て、アルコール依存症にも苦しんだ。
少女時代、チリで上流階級の一員として過ごす日々があった一方で、今はうらぶれたコインランドリーで、アパッチ族の老人と並んで洗濯物が洗いあがるのを待っている。泥酔して自動車事故を起こしデトックス施設に入所したことや、刑務所で囚人に創作を教えたこともある。
1人で優に数人分はありそうな波乱万丈の人生だが、彼女はそれを決して特別な、劇的なものとして描かない。そぎ落とした文章で、日常の1コマのように描く。
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source : 文藝春秋 2019年9月号