政治の懐に飛び込んで本音を聞き出すのは、実に大変なことです。政治家は心を許した人にしか本音を明らかにしませんし、この場合の「心を許した人」というのは、実際には自分に心酔した人物や何でも言うことを聞く人のことです。
このためジャーナリストや学者が本音を聞き出そうとしていると、往々にして政治家に癒着してしまいがちです。
ところが、相手が著者のジェラルド・カーティス氏だと、名だたる政治家たちが、実によく本音をさらけ出すのです。
そこには、カーティス氏がアメリカ人という“余所者”という意識もあったかもしれませんが、一番大きな理由は、カーティス氏が日本文化をこよなく愛し、日本語がペラペラであるということだったのでしょう。「彼なら正直に話しても、不当な扱いをしないだろうし、誠実に受け止めてくれるだろう」という信頼感を得ていたからだと思います。
カーティス氏が世に知られるようになったのは、1971年に出版された『代議士の誕生』という研究です。これは、当時、中選挙区だった大分2区の自民党候補者の選挙運動に1年間密着して、自民党の選挙運動組織についてまとめたものです。
日本国内では、それまでこうした研究論考はなかったことから、政治を学ぶ人たちにとってはバイブルのような存在になりました。私も学生時代、大いに勉強になりました。
『代議士の誕生』は、48年前の書籍でありながら、いまも貴重な論考であり、2009年に日経BPクラシックスから新版が出ています。
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source : 文藝春秋 2019年9月号