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【イベントレポート】続・2030年問題-採用戦略革命 ~ 直面する「644万人」の人手不足という現実、採用戦略のゆくえ ~

■企画趣旨

少子高齢化による労働人口減少の問題は年を追うごとに深刻なものとなってきています。多くの企業はDXによる業務効率化、生産性向上の取り組みを加速することでリソースの獲得を試みてはいますが、価値を創出する人材の採用、育成に課題を感じている経営者も少なくありません。

2019年にパーソル総合研究所(※)が発表した2030年の労働市場の未来推計をみてみると、労働需要が7073万人に対し、労働供給は6429万人と、2030年時点で644万人の人手不足が生じると予測されています。

特に、高度な技術や専門知識を必要とする分野での人材不足が深刻化しており、企業の成長やイノベーションに影響を与え、経済の競争力を低下させる恐れがあります。

また、「中小企業の経営課題に関するアンケート」(東京商工会議所:2023年12月13日)によると、人員が不足していると回答した企業が全体の6割に上り、2030年を待たずして、急激に人手不足感が高まっていることがうかがえます。その対応策として正社員の採用、定年延長、社員の能力開発に資源を集中させる企業が増えていますが、人件費の高騰なども重なり、業種によっては思うように人材の確保が進んでいないのが現状です。また、コロナ禍を経て、落ち着きを見せていた離職率も増加傾向にあり、採用、定着、育成面における費用負担が経営課題としてのしかかっています。

本カンファレンスでは昨年9月に開催をした「2025年問題・2030年問題」をより深掘りする形にて「続・2030年問題-採用戦略革命」をテーマに、採用プロセスにおけるデジタルやAIの活用、ミスマッチを解消するアセスメントやエンゲージメントの醸成、採用ブランディングなど従来の採用手法や人材獲得の枠組みを超えた取り組みについて、有識者やプロフェッショナルの講演を通じ検証した。

※パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2030」

■基調講演

日本の採用活動をアップデートする
~ 事例とデータから考える、選ばれる企業の条件とは ~

神戸大学大学院経営学研究科
教授
服部 泰宏氏

神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。滋賀大学専任講師、准教授、横浜国立大学准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業における組織と個人の関わりあいをコアテーマに、経営学的な知識の普及の研究、日本、アメリカ、ドイツ、アジアなどの人事管理に関する研究などに従事。18年以降は、企業内で圧倒的な成果をあげる「スター社員」やそうした社員に対する「特別扱い」に関する研究も行っている。 10年および22年に組織学会高宮賞、 14年に人材育成学会論文賞、16年に日本の人事部「HRアワード」書籍部門最優秀賞受賞、 19年に 日本の人事部「HRアワード」書籍部門入賞、20年に労務学会賞(学術賞)および,労務学会賞(奨励賞)を受賞。

◎採用、募集の基本的な考え方

人事管理においては2010年頃から「多様性+全体性(wholeness)への注目」がトレンドになってきたと考える。例えばパーパス、人的資本、多様性、1on1、エクスペリエンス、ティ-ル、ESG(SDGs)がキーワードだ。人と人の違いを見る視点と、人と社会を全体的に見る視点の両方を持つ“ウォームアプローチ”である。この大きなトレンドを踏まえて、自社の採用の問題を深く考え、方針や施策を選択していくことが必要だ。

企業は、設定した目標と経営戦略を実現するために、ある時点で不足している、あるいは将来時点で不足すると予想される分の人材を獲得するために採用を行う。また、採用には、職場や組織の活性化という目的もある。

B.シュナイダーは、組織文化がある程度長期にわたって維持され、その組織らしくあり続けるのは(1)惹きつけ=Attraction(2)選抜され=Selection(3)自然減Attrition)のメカニズムによると述べた。“ASA理論”である。歴史のある組織は感性を持ち、それを変えることは簡単ではない。しかし、人事・総務が一体となって1~3を実践していけば組織を変革することは可能。採用・評価・育成・配置は、組織を変えるポテンシャルを秘めた面白い仕事だと改めて思う。

リアリズムに基づく採用を心がけたい。応募者には、仕事や会社について良いイメージだけでなく悪いイメージも事前に伝えておく。すると過剰な期待を持たず現実的な期待を持った人が集まるので、応募し面接を受ける人数は少なくなる。しかし、そうであっても応募者と採用者の質は下がらないことが確認されている。また、現実的な期待を持っているため入社後の“裏切られ感”がなくなり、不満足や離職を抑制できる

ある会社は会社案内冊子の左側と右側を使い分けて、組織の「魅力=ポジティブ要素」と「現実=ネガティブ要素」を両方伝えた。入社してからの現実との乖離、リアリティショックの軽減のためだ。ポジティブなことを伝えるにあたっては、応募者の世代なども踏まえて人々を惹きつける言葉を選択・記載するといい。

ネガティブな情報を伝える際には、表現の仕方が重要だ。例えば「繁忙期にはかなり激務で、私生活との両立が困難になることも」は、「本当に忙しい時には帰宅時間にコンビニしか開いていないようなことも時々ある。そういう時には、みんなでコンビニまでダッシュして、美味しいお弁当の取り合いをすることも(笑)」という風に。

不祥事などネガティブな報道があった後は、むしろそのことに触れないことのほうがマイナスが大きい。その問題に組織としてどう対応しているのか、それを担当者としてではなく個人としてどう捉えているか、という観点から回答することが大切だ。

100年以上前のロンドンの新聞にE.シャクルトン卿が出した「南極探検隊メンバー募集広告」は、文面や媒体選択含め明確な意図を持って行い、5000人以上の応募者を集めた極めてユニークな広告として今も紹介され続けている。日本のメルカリも、欲しい人材はどういう人でその人たちはどこにいるかという発想のもと、ターゲットの世代なども踏まえて人々を惹きつける言葉を選択して全国紙に「世界にはみ出す人求む」というカラー全面広告を打った。

◎選抜の基本的な考え方/面接を掘り下げてみる

さまざまな採用選抜手法(ツール)がある。選抜にあたっての重要なポイントは、論理的な順序として測定対象=目的(自組織は何を見たいのか)がまずあって、その上で、手段/手法(それを何で見るか)が選択されるべきであるということだ。

しかし例えば「今年は面接で何を質問しようか」のように、手段と目的の置換がしばしば起きてしまう。それぞれの手段/手法ごとに得意とする測定対象がある——ということを意識したい。業績の予測精度例を挙げると、ある製造業の会社の営業職300名のデータ分析を行ったところ入社時点での面接評定は3年後の業績を予測していなかった(相関関係は見られなかった)。

面接の機能は下記3つに分けるべきと考える。
(1)    アセスメント 回答者が嘘をつくインセンティブを持つ項目について、質問を駆使して探り当てる。
(2)    情報収集 面接官と非面接官の間の情報の非対称性を埋める。
(3)    動機形成 お互いが好きになる。好きになってもらう。例えば、フィードバックを通じて。

面接評価に影響する要因はさまざまだ。求職者の個人特性や経験、仕事遂行能力など、仕事遂行に直結する要因を多くの面接官は自覚的に評価基準にする。しかし、求職者の一般的対人スキルや面接スキル、面接官の評価バイアスなども面接評定に少なくない影響を及ぼす。

そこで私の研究室では、経験を積んだ(面接の)熟達者は面接の過程において何を考え、どのような情報に注目し、時間をどのように使って評価を行っているのか? 各種バイアスに対してどのように対処しているのか? その答え=面接官の実践知を、調査・研究している。

一般の面接官、優秀な面接官それぞれの実践知をまとめたスライドは以下。

◎新しい「優秀さ」

成果を規定する資本(capital)とは何だろうか。資本とは事業活動の重要なインプットであり、投資によって増やすことができるものだ。経済的資本(その人が何を持っているか)/人的資本(何を知っているか、何を身につけたか)/社会関係資本(誰を知っているか、誰とつながっているか)/心理的資本(どういう心のしなやかさを持っているか)、などがある。

個人特性の中には、相対的に「変わりやすいもの」と「変わりにくいもの」がある。例えば、非常に変わりにくいのは知能、創造性、概念的能力、エネルギー。一方、比較的簡単に変化するのはコミュニケーション(口頭)など。採用にあたっては譲れないポイント、今見なければいけないもの、後から変えられたり伸ばせるものを明確に意識して活動にあたりたい。

最後に、採用にまつわる「デ・ファクト・スタンダード(事実上の、客観的な根拠のない標準)に対する学生たちの素朴な疑問をいくつか掲げておきたい。私たち採用側が当たり前と思っていることの中には、求職者からすると納得のいかないものも多い。

・なぜ貴社の面接は全部でN回なのですか? N-1回ではダメなのですか?
・グループ面接と個人面接を、どういう風に使い分けているのですか?
・適性検査では見られなくて、面接では見られるものって何ですか?
・面接官の選択にはどのような基準があるのですか?適切な面接官を選ぶことができていますか?
・「採用の成功」ってどのように定義していますか?

採用側や私たち研究者がこうした問いをいま一度考え直し、その答えを持っていることは大切である。

■特別講演(1)

デジタル時代の採用戦略
~ サイバーエージェントの“社員を巻き込む”採用現場 ~

株式会社サイバーエージェント
採用戦略室 室長
大久保 泰行氏

2003年サイバーエージェントに入社。インターネット広告代理事業部門にてセールス部門のエグゼクティブプランナー、営業局長を経て、2017年10月よりコーポレート人事部門へ異動。社内のパルスサーベイであるGEPPOの運用と社内ヘッドハンティングを専門とする組織、キャリアエージェントの責任者として全社の適材適所を推進。22年4月より全社の新卒、中途採用領域の責任者。

 ◎採用のために行っていること

当社は創業以来、新卒採用を行ってきた。初期は幹部を積極的に中途採用していた時期もあったが、社員が2000名を超えてきた頃~7000名以上となった現在は、新卒はインターンを重視し中途はリファラル採用や専門職採用を中心にしている。今日は新卒採用に軸を置いて話す。

採用で大事にしているのは以下の3点。
・カルチャーマッチが重要
・採用の民主化、社員を巻き込んだ採用活動を行う
・ファクトとイノベーションで採用を進化させる

当社のミッションステートメントの一つに「採用には全力をつくす」という言葉がある。会社の持続的成長へとつながる採用活動は非常に重視している。2017年にYJC(良い人材を自分たちでちゃんと採る)プロジェクトを開始した。それまでは採用を人事のみで実施していたが、戦略立案から実行=母集団広報~選考~クロージング~オンボーディングまでを、現場社員と一緒に一気通貫で行っている。

社員の協力を引き出すポイントとして、評価/グレード/フィードバック(FB)がある。評価については、社内で本業の成果に加え他部署や全社への貢献を評価する「成果ミッション」の運用が開始されており、採用への協力もこれに該当。明確に業務として評価されることで一生懸命頑張るという流れが生まれている。さらに、採用グレード制「Rグレード」を新設。採用の稼働や実績により5段階に分け、昇格した際には社内報への掲載によって採用への貢献度が伝わるようになっている。

そして、貢献度や習熟度のFBも行っている。選考データの可視化で全体と個別の選考官自身のずれをFB。内定承諾への貢献実績とあわせ、現場社員の習熟度、貢献度UPを評価している。内定承諾に貢献できていない選考官にも、個別面接後の学生アンケートのコメントを見せることで、貢献実感を創出している。さらにFBだけではなく、それらを元に「短時間の面接で本質を見抜くワザ」など、社員自らが学べるコンテンツも提供している。

◎採用のDXを推進するということ

当社では、内定まで6回前後の選考がある“新卒採用の本選考”が毎年4月から始まる。社員を巻き込み、良い人材を採用するには、とんでもないカロリーがかかる。よって「効率化×クオリティ」⇒innovation。ファクトとイノベーションで採用を進化させることを目指している。ファクトデータ収集/蓄積→ロジック管理→データ加工/整形→データ可視化の流れでデータ基盤を構築し、ファクトに圧倒的に強い採用組織にするのだ。

未来予測の精度を向上させるために「採用ペライチ」というシート(資料)を作り、現在実績から未来着予を予測している。約100社ある子会社含め、人材採用のポートフォリオをリアルタイムで可視化できることを目指している。また、見えないファクトを見える化するために当社を受けている人へのサーベイを行い、候補者の状況を可視化することも行っている(これは答える側のメリットが重要)。

テクノロジーの活用も進む。オンラインのグループディスカッションの選考にAIを導入。選考官の無人化に着手している。参加者の発言をAIで書き起こし、それを社員が見て選考することで精度が上がり、年間で数千時間の圧縮にもつながりそうだ。過去に好評だったインターンシップを多くの候補者が制約条件を突破し体験できる状態も構築。この新施策バーチャルインターンによっても採用DXを推進している。

また、採用ホームページのNewsをコンテンツ化したり、100人以上の社員にバーチャルで会えるコンテンツや「広告業界の就活対策」「グループディスカッションの心構え」といったYouTube動画ライブラリーを作ったりもしている。

こうしたコンテンツ群により、候補者側は自ら会社への解像度を高め、意向度を高めることができ、当社側は母集団形成/選考遷移/クロージングの各フェーズの人的リソースを大きく削減することにつながる。

◎これからの採用DX

繰り返しになるが、下記スライドの(1)採用~入社活躍までのファクトデータ、がとても重要である。

(2)(3)も大事。人事こそAI活用人材になるべき。まずはやってみることだ。ファクトがあれば何故ダメだったかは分かる。キーワードとして「ファクト、AI、やってみる」を持って帰っていただければ幸いだ。

■プロフェッショナル講演(2)

経営の想いと情報浸透がもたらす、
組織と個人のポテンシャル最大化

株式会社ヤプリ
取締役執行役員 COO
山本 崇博氏

2019年、(株)ヤプリにCMOとして入社。23年より同社COOに就任。セールス・マーケティング両部門を統括。それ以前は外資系広告代理店、ゲーム会社にて広告・販売促進・PRを経験。また、(株)アイ・エム・ジェイ(現アクセンチュア)では、執行役員として、マーケティングコンサルティング部門を牽引。製造、通信、放送、流通、教育、金融など多業種に渡るクライアントを支援。

当社のノーコードのアプリ開発プラットフォーム“yappli”は、企業のさまざまなビジネス課題を解決し、モバイルDXを加速させる。アプリというと顧客エンゲージメント向上のために店舗・EC(電子商取引)で活用する例が多かったが、昨今は組織エンゲージメント※向上を狙い社員向けに活用するケースも増えてきた。
※組織と社員との関係を示す指標。組織と社員が相互に信頼できる関係性を構築する。

そのようなHR Tech市場に対応するのが、「アプリで組織をひとつに」と標榜する“yappli UNITE(ヤプリユナイト)”。働き方の多様化が進む中で、企業や従業員は情報の浸透や共感醸成に苦戦している。組織エンゲージメントの高低は、離職率や生産性の高低に大きく影響する。

組織エンゲージメント強化に重要は4つの視点は、インターナルコミュニケーションの促進/リスキリング=成長機会の提供で人材育成/チームビルディング=働く仲間と繋がる・楽しむ/ウエルビーイング=従業員の健康と安全をサポート、である。

三菱UFJ信託銀行はyappliをインターナルコミュニケーションの促進に活用している。スマートフォン+アプリの組み合わせにより、トップのメッセージや会社のあらゆる情報をいつも近くに置くことに加え、他部署の仕事を知りキャリアについて考えるきっかけを従業員に持ってもらえるようにした。

具体的には社長・役員メッセージ、デジタル社内報、広報動画・記事、ポッドキャスト、社内FAQ、電話帳、イベントカレンダーなどのコンテンツなどを用意し運用している。Yappliでは、企業の理念や経営陣の声を組織に浸透させたり、会社で必要な採用(リファーラル採用含む)をアプリから簡単に共有できるようになっている。

オルビスはyappliを成長機会の提供で人材を育成する一助にしている。ビューティーアドバイザーが集合研修などで学んだことを生かし、さらに接客の質を上げるための自由な学びの機会を提供するためにyappliを活用。商品情報の確認やオンボーディング・サポート、多数あるデジタル機器の操作理解などに、説明販売スタッフの95%が自主的にアプリを利用している。

当社内では、働く仲間と繋がり・楽しむためにyappliを使っている。異なる部署やグループ会社含む大人数で、QRコード交換によるゲーム感覚での活発な交流促進を行ったり、七夕の時期にはアプリに投稿された願いをオフィスの笹の短冊に実際に掲示したりした。アプリには人と人、人と場所を繋げる効果があり、リアルとアプリを融合してオフィスでの会話のきっかけ作りに役立てている。また、各種研修やワークショップ後でもアプリで振り返ることができる環境を提供している。

さらに、従業員の健康と安全をサポートするために、福利厚生ポイントや歩数などヘルスケアの数値に合わせてインセンティブを配布・付与する機能も使っている。台風、雪などの悪天候の日は会社からメッセージを送ることができ、緊急時のエリアを絞った安否確認もできる。※yappli UNITEの動画デモンストレーションあり

閲覧状況などアプリ内の行動を把握する機能、サーベイ・分析で組織の状態を把握する機能も持ち、計測とアクションの複数のPDCAを効率良く回していくことができる。導入企業からは、資料を探す手間が大幅に短縮/場所や時間を選ばずにアクセス/アプリが情報のハブに/社内資源を一元化し活用向上/愛着心や帰属意識が向上、といった嬉しい声が寄せられている。

繰り返しになるが、インターナルコミュニケーションの促進/リスキリング/チームビルディング/ウエルビーイング、そして採用にyappli UNITEによるソリューションを活用していただければ幸いだ。

■プロフェッショナル講演(3)

人材獲得競争時代を勝ち抜く採用マーケティング活動とは
~ 理想的な採用候補者データ構築とその活用方法 ~

株式会社TalentX
代表取締役社長 CEO
鈴木 貴史氏

起業家。日本の『リファラル採用』第一人者。大手企業を中心に1,000社、70万名が利用する採用マーケティングSaaSを運営。2015年、日本の採用の在り方に課題を感じ、TalentXを創業。日本初のリファラル採用サービスMyRefer、採用MAサービスMyTalentをリリース。19年、経済産業省後援「第4回HRテクノロジー大賞」採用部門賞、日本の人事部「HR Award2019」を受賞。21年、東洋経済「すごいベンチャー100」に選出。

◎採用マーケティングの重要性/従来の採用と今後の採用 

採用マーケティングとは、マーケティング戦略を駆使してその企業で働く価値を提案し、タレントを惹きつけ、採用し、維持する行動。欧米では2013年頃から“Recruiting is Marketing”が浸透。自社採用比率を伸ばすことで、優秀な人材の獲得やコストの最適化を実践するようになっている。

労働人口の減少に反し、企業の採用ニーズは増加の一途だ。約8割の企業が中途採用未充足で、今後さらに採用難易度が上がると想定される。よって、採用ターゲットの大多数を占める、転職潜在層を惹きつける施策が必要になる。人材獲得競争時代を勝ち抜くには、バッティング競合の少ないリファラル採用やタレントプール(採用マーケティング)により、潜在層から戦略的にタレントを獲得することが重要なのだ。

今の20歳代=Z世代は、広くつながり続けているコミュニティの中にいる。この層を獲得するには(1)“why”の必要性 (2)多様なタッチポイント (3)関係を持ち続ける必要性、の三つが重要だ。

(1)~(3)を詳述する。Z世代はwhy世代。パーソナルパーパス(個人の潜在意義)や、ビジネスパーパス(はたらく意義)の接合点を重視する。情報が溢れている昨今、候補者には無限の選択肢があり、企業に興味を持つための多様なタッチポイントが存在する。そして、雇用の流動性が増す昨今、社員や候補者の周りにも候補者がいる。また、応募後もファンになり、関係を持ち続ける必要性がある。

つまり、企業は将来の候補者と関係性を良好に保ち続ける必要があるのだ。雇用の流動性が増し、優秀なタレントには数多くの選択肢がある。企業は、最高なタレントにとっての選択肢であるために採用マーケティングを実施していく必要がある。

◎理想的な候補者データ構築と活用方法/当社の取り組み・Myシリーズの紹介

実は企業は、自社採用において「勿体ない」ことをしてきた。例えば年間採用人数が20名の企業は、年間1000名以上の候補者データを取得している。しかしながら、その候補者データを活用できている会社はほぼ存在しない

某人材大手企業は1年間で6000名のタレントデータベースを構築している。そのうちアルムナイ(退職社員)は全体の8%にすぎない。候補者データを資産化し、採用に活かすメリットは大きく3点。転職潜在層へのリーチ/採用確度の高さ/採用コストの低さ、だ。将来採用する可能性の高い優秀な人材を他者とバッティングせずに低コストで獲得できるのである。

上記3点を詳述する。候補者とは一度選考で話したり、関係を構築している状態。つまりお互いに理解している状態から始まるので、意向が高まりやすい。企業は採用ニーズが発生次第すぐに候補者へのアプローチを開始することが可能なので、採用ターゲットを短期間で獲得できる可能性が高まる。

決定に至らない応募者データを掛け捨てせずにデータを蓄積すれば、翌年や数年後の採用決定に繋がり、自社採用力が向上していく。候補者は、再度企業からアプローチされることに好意的であり、7割を超える企業が過去応募者への再アプローチから決定実績がある(当社調べ)

よって、過去選考の辞退者や、選考に進まなかった「候補者情報」や「辞退理由」を収集しながら、継続的にPDCAを回せる環境を構築することが重要だ。つまり、採用マーケティングオートメーション(MA)・ツールなどによる候補者データ活用の仕組み化が有用だ。※企業の候補者データ活用の成功事例紹介あり

当社の“MyTalent”シリーズは、候補者リストを資産に変える国内初の採用MAツール。求職者、潜在的求職者のタレントプール構築から、半自動でのアプローチ、仕組み化までを一気通貫で実現する。※デモンストレーション動画あり

中途過去応募者/新卒過去応募者/特定イベント候補者、将来のリファラル候補者/アルムナイ社員など、欲しかったものの採り逃がした候補者や見込み候補者を半自動でナーチャリング、転職意向が高まるタイミングで負けずに採用に繋げられるのだ。例えば、接点のある、またはアプローチした候補者の自社への興味の度合いをその人のウェブサイト閲覧履歴などで確認する仕組みもある。

なお、ツールの提供だけでなく、採用MAサービスの導入・運用代行サービス=コンサルティング、BPOサポートも当社は行っている。人的支援により、プロジェクト立ち上げから仕組み化まで伴走する。貴社の採用プロセスにマーケティングを実装し、新たな応募を増やしながら将来のコストを最適化する。持続可能な採用マーケティングに興味のある企業様は問い合わせをいただければ幸いだ。

■特別講演

人が集まり・育ち・定着する会社の経営学

『日本で一番大切にしたい会社』著者
人を大切にする経営学会会長
坂本 光司氏

1947年静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞実行副委員等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

◎人に嫌われた会社に未来はない/人材不足社会の衝撃

労働力人口の構造的減少は止まらない。景気の問題ではなく、時代は完全に変わった。2020年の15歳~64歳の「生産年齢人口」は7509万人だが、2040年には6213万人になると推計されている。20年間で1296万人の減少予想である。

AIやIT、ロボットなどの発達はあれど、1年に約70万人単位で減っていくというのは、例えば鳥取県や島根県、高知県など各県の全人口に匹敵する人数が毎年減っていくということ。これは深刻だ。社員を採用できない企業、労働力が不足する企業が続出するだろう。また、サービス経済化による必要労働力の増加も予想される。

人材の奪い合い競争が地域・業種・企業規模を超えて激化し、人材の流動化が拡大する。当然、世界水準に比しても低い日本の賃金は上昇するだろう。現に、熊本に上陸した台湾の半導体製造企業TSMCの賃金および同社事業に関連する企業の賃金は、従来の現地企業の相場を大幅に上回っている。従来の地場産業の賃金との格差が気にかかる。

人材の流動化について。2021年は転職希望者が889万人・転職者は290万人(離職者は含まず)、22年は転職希望者が968万人・転職者が303万人であった。23年の転職希望者は1050万人となっている。五千数百万人の労働人口のうち転職希望者がこれだけ多い、辞めたいと思いながら仕事をしている人が五人に一人という事実。これでは人のこころを打つサービスや感動的価値創造は行われないだろう。昨今の日本経済低迷のひとつの要因ではないかと考える。

◎人が集まり・育ち・定着する会社の経営学/その会社がやっていること

人が集まり・育ち・定着する、そして成長する会社は、私が8500社以上訪問した中の1割程度しかない。学会を立ち上げて増やすために活動してはいるが……。いずれも中小・中堅企業であり、1社ずつの詳しい紹介はできないのでここに名前を挙げておく。伊那食品工業、中村ブレイス、宮田運輸、ネオレックス、ふらここ、日本レーザー

いずれも応募者が殺到する人気企業だ。規模・業種・ロケーションの問題ではない。高学歴のエンジニアが集まる会社もある。いずれも参考になると思うので興味があれば調べてみていただきたい。

人が集まり・育ち・定着する会社の9つの特徴は、以下のスライドを参照。

特に(1)社員とその家族第一主義が重要と考える。社員はコストではなく、目的なのだ。(2)働きがい・働きやすさも大切だ。効率ばかり重視し乾いたタオルを絞りすぎると……破れてしまう。先述の9つに続くキーワードは、情報発信型/超ガラス張り型/5方良し型/社会企業型/ファンづくり型/理念重視型/自律型・独立型/値決め型/中長期重視型/風土重視型/家族的経営/教育重視型/全社員採用参加経営/弱者優先、である。

本日のテーマ「採用」については担当中心採用経営ではなく、全社員採用参加経営を推奨する。全員で選び採用した方は仲間であり、社員全員で丁寧に育成するだろう。

最後に、人が集まり・育ち・定着する会社が重視していることを挙げておく。感謝カードや感謝を伝える場をつくる/経営情報の公開/何でも言える組織風土の醸成/各種表彰制度/個人に合わせた多様な働き方/ノルマを設けない/全社会議・労使懇談会の開催/資格取得奨励制度/提案制度

大切なのはやり方ではなく“あり方”だ。世のため人のためになる経営をすることだ。あり方が間違っているとどんな最先端のやり方をもってきても上手くいかない

2024年6月12日(水) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局