『女の子たち風船爆弾をつくる』小林エリカ/文藝春秋
『生きることのはじまり』金滿里/人々舎
『娘が母を殺すには?』三宅香帆/PLANETS
戦地の様子を伝える映像は今も流れ続けているのに、それらの中の女性たちは戦争被害者とかそんな名前をつけられて、私もつい自分の生活とはかけ離れた想像の中に留めてしまう。膨大な量の資料と取材によって編み出された『女の子たち風船爆弾をつくる』は、太平洋戦争末期に東京宝塚劇場に集められた女学生たちの戦争体験と青春を、彼女たちの目線で描いた長編小説だ。
憧れの制服が着られなくなり、宝塚歌劇団の舞台が見られなくなり、意図せぬままお国のために奉仕した「わたしたち」。戦争当事者となっていった彼女たちにも、若い女の子特有の日常、そして今を生きる私たちと似たような小さな喜びや落胆があった。何度も繰り返される「桜の花が咲いて散る」という一文で、戦前、戦中、そして戦後に青春を送った、けして英霊として神社に祀られることのない彼女たちの時間がとてもリアルに紡ぎ出される。
1996年の作品を大幅に加筆・改稿した『生きることのはじまり』もまた、一見一般的な女性とはかけ離れた存在にも見える著者の数奇な半生を、その時々の細やかな感情や抱いた違和感に触れながら綴った記録である。朝鮮古典芸能家の母に日本で育てられ、首から下が全身麻痺となった著者は、今よりずっと障碍者の生活に理解が進んでいない時代を生き抜き、パフォーマンス集団を主宰するに至る。不自由な運命の中で自由に生きた彼女の生に、自由とはいかなる事態か考えさせられた。
『娘が母を殺すには?』は、母娘関係を主軸にマンガや文芸作品を論じる。主に女性作家たちによって繰り返し描かれ続ける母と娘のこじれた関係だが、著者はそのこじれの一角を専業主婦の母親たちに見出す。同著者の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』と併せて読むと、全身で会社に身を投じるサラリーマンと、それを支える主婦という戦後日本の家庭のかたちが、私たちにどんな文化を強いたのかが浮き彫りになる。
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source : 文藝春秋 2025年1月号