『台湾のデモクラシー』渡辺将人/中公新書
『情報の時代を見わたす』原島博/工作舎
『ダニエル・C・デネット 意識と進化の哲学』「現代思想」2024年10月臨時増刊号
2023年、台湾に4か月滞在したのをきっかけに、彼の地についてあれこれ読んでいる。『台湾のデモクラシー』は、「アメリカ」を合わせ鏡にしながら、台湾の政治や社会の特性を炙り出すユニークな内容で惹きつけられた。台湾にとって、アメリカは常によりどころであり、お手本だったと著者は言う。現場を歩き、身体で情報を吸収していく著者・渡辺将人のフィールドワークは、迫力も説得力も抜群だ。
台湾の政治・社会状況を考える際に重要なのがメディアだが、そもそも「情報ってなんだ?」という問題に俯瞰的に取り組んだのが『情報の時代を見わたす』である。著者・原島博はコミュニケーション工学を専門にメディアやアートにも造詣が深く、スケールの大きい学際的活動が得意。その大雑把さに眉をひそめる向きもあろうが、俯瞰しなければ見えてこないことも多い。ネット社会の特性を「匿顔」コミュニケーションと見切ったのは、まさにそれ。顔は人どうしのコミュニケーションには欠かせない部位だが、ネットではそれが見えない。「匿名」ではなく「匿顔」こそが、その特質なのだ。
学際と言えば、進化論や人の心を縦横無尽に論じたダニエル・C・デネットは、20世紀後半を代表する学際的哲学者の筆頭だろう。自然主義を徹底して擁護し、計算機学者や進化学者らとも共同作業を行ないながら、膨大な業績を残した。その彼が、2024年4月に亡くなった。『現代思想』誌が、デネットの著作の翻訳者らを中心に、論稿と対談を集めた追悼特集号を出している。哲学と科学に大きな足跡を残したこの人の姿を偲ぶ日本語文献としては、これ以上相応しいものは他にない。
その他、明治期の日本が近代的な国家を建設していく過程の苦闘を再構築する松浦寿輝『明治の表象空間』(2014年新潮社、2024年岩波現代文庫)、科学を極上のエンタテインメントに変えてしまうマジシャン・伊与原新の『藍を継ぐ海』(新潮社)も挙げておきたい。
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