日本では望まなくても「延命治療」にずるずる巻き込まれる
私は「尊厳死」に賛成です。「自分の人生の最期」を自分で決めることができるのは、人として当然の権利だと思うからです。
どんな状態でも「生命」を維持することが、最優先かつ最大の目標にならざるをえない医療の方針は、もはや時代状況に即していません。
私の研究テーマは、「発展し続ける科学技術」と「人類の誕生から大きくは変わらない人間の能力」との“ギャップ”です。
科学技術は、もともと人類がつくり出したものですが、総体として見ると、人類の意図や目的から独立した「システム」として自律的に動くようになって、人間の「身体」や「心理」の方が付いていけなくなっています。その最たるもののひとつが「医療システム」です。
人々の死亡率がもっと高く、医療技術も今より劣悪だった時代には、「生命の維持」を最大の目標にする医療方針は、堅持すべき意義がありましたが、今や「生きているだけ」の状態の患者を量産することに貢献しています。直ちに法制化すべきだとは思いませんが、少なくとも議論をした方がいい。社会で広く議論が起こることを期待しています。
こう語るのは、東京大学大学院情報学環教授で理化学研究所革新知能統合研究センターチームリーダーの佐倉統氏だ。もともとの専攻は動物行動学だが、その後、専門を移し、「科学技術と社会の関係」を考察し続けている。
近年、鎮痛以外の積極的な治療をすべて中止し、対症療法だけで寿命が尽きるのを待つ「消極的安楽死」(「尊厳死」)だけでなく、医師が致死的薬剤の投与などにより、患者の死期を早める「積極的安楽死」まで合法化する国や地域が増えている。オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、コロンビア、カナダ、オーストラリア、スペイン、ニュージーランド、ポルトガルなどだ。
フランスでは、映画監督のジャン゠リュック・ゴダール氏がスイスで自殺幇助を受けて亡くなったことをきっかけに安楽死導入の是非を議論する「市民会議」がつくられた。
隣国の韓国でも、2018年に、死期が迫る患者の心肺蘇生、人工呼吸器の装着、透析、抗がん剤の投与などの終了を認める「延命医療決定法」が法制化され、2023年6月までに、約29万人がこの制度下で死を迎えている。
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