安楽死の法制化は早まるな

変わりゆく日本社会

宮下 洋一 ジャーナリスト
ライフ ライフスタイル
宮下洋一氏

 2022年9月13日、フランス映画の巨匠ジャン=リュック・ゴダール(享年91)が、スイスで亡くなった。このニュースは、世界各国の人々を驚愕させた。「病気ではなく、疲れていた」ことを理由に、安楽死を遂げたからだった。

 昨今、オランダ、スイス、スペインなど、安楽死を容認している国々では、終末期でない高齢者が医療の力を借り、死期を早める行為が増加している。なぜこのような状況が発生するのか。安楽死の概念に変化が訪れているからなのか。また、超高齢社会の日本でも、将来、同じような現象は起こりうるのか。

 私は、2015年末から、スイスを中心に世界6カ国の安楽死現場を訪ね、『安楽死を遂げるまで』と『安楽死を遂げた日本人』の2冊を出版した。重病に苦しむ外国人や神経難病を患う日本人らを取材し、安楽死の瞬間を見届けてきた。

 スイスでは、患者自らが致死薬入りの水を飲み干すなどで自死する「自殺幇助」が容認されている。一方、オランダやスペインでは、自殺幇助のほか、医師が注射器に入れた劇薬を患者に直接投与し、死に至らせる「積極的安楽死」も認められている。私は、広い意味で両者を安楽死と呼んでいる。

 ゴダールは、前者の方法で亡くなった。安楽死をするためには、複数の医師による診断に加え、1)本人の明確な意思、2)耐えがたい苦痛、3)改善の見込みがない、4)代替治療がない、といった要件を満たしている必要がある。

 しかし、これらの要件に必ずしも該当しない高齢者に対しても、安楽死を認める傾向が強まっている。その理由について、会員数約17万人を数えるスイス最大の自殺幇助団体「エグジット」のガブリエラ・ジョナン会長(フランス語圏支部)は、次のように述べている。

「2014年以降、高齢に基づく複合疾患も、(癌のように)自殺幇助を受けることができる病のひとつに含めることになったのです」

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ライフ ライフスタイル