精子提供の優生思想を憂う

変わりゆく日本社会

河合 香織 ノンフィクション作家
ライフ 社会
河合香織氏

 2021年12月、東京都内の30代女性がSNSを通じて知り合った男性からの精子提供によって精神的苦痛を受けたとして、約3億3000万円の損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴した。精子提供者は、国籍、学歴、配偶者の有無について嘘をついていたと原告は主張している。

 訴状によると、原告女性は夫との間の子どもを10年以上前に出産したが、夫に遺伝性難病の疑いがあることが判明したことから、SNSで精子ドナーを探した。15人程度の精子ドナー候補者とメッセージのやり取りをし、そのなかで本訴訟で被告となる20代男性と知り合った。

 男性は国内最大手金融機関に勤務し、国立大卒、花粉症等のアレルギーは一切ない、アルコールに強く、大きな病気にかかったことはない等の自己紹介を記載していたという。

 女性は精子提供の公的制度がないなかで、身元が判然としない人から精子提供を受けることに心理的抵抗感を抱いていたため、ドナーに対して3つの条件を設定した。

(1)夫(東京大学卒)と同等の学歴であること。

(2)配偶者等がいないこと。

(3)日本人であること。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ライフ 社会