■開催趣旨
1990年代初めにバブル経済が崩壊し、絶好調だった日本経済は今日に至るまで長期下降を続け、「失われた30年」とも言われています。かつては、世界2位を誇ったGDPは現在アメリカ、中国、ドイツに次ぐ4位まで低下し、2025年にはインドにも抜かれ5位になる見通しです。
長引く不況を何とか打破し、業績回復の戦略を描きたい企業は、構造改革や人事制度改革、デジタルを活用した業務効率化、生産性向上などの取組みを加速させています。しかし、改革には様々な課題もあり、組織変革をとっても、抵抗勢力との調整、コミュニケーション不全によるモチベーションの低下、リーダーシップの欠如によるプロジェクトの停滞、文化の壁など一筋縄ではいかない部分もあります。
今一度、変革の目的を明確に設定し、あるべき姿の実現に向けたロードマップをしっかりと描くことが不可欠となります。
そこで本カンファレンスでは、「組織変革のAs-Is/To-Be」テーマに、変革の実現に向け、ヴィジョンの浸透、対話の徹底の重要性、持続的な成長と発展を牽引する「ヒト」そしてリーダーシップについて有識者、実践者の講演を通じ考察しました。
■基調講演
『僕たちのチーム』のつくりかた
~組織が機能するためのミドルマネジメントの育成、次世代リーダーのあるべき姿~
武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 学部長
Musashino Valley 代表
LINEヤフー
伊藤 羊一氏
アントレプレナーシップを抱き、世界をより良いものにするために活動する次世代リーダーを育成するスペシャリスト。2021年に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設し学部長に就任。23年6月にスタートアップスタジオ「Musashino Valley」をオープン。「次のステップ」に踏み出そうとするすべての人を支援する。また、ウェイウェイ代表として次世代リーダー開発を行う。東京大学経済学部卒。1990年日本興業銀行入行。2003年プラスに転じ、ジョインテックスカンパニーにて執行役員マーケティング本部長、ヴァイスプレジデントを歴任、経営と新規事業開発に携わったのち、15年よりヤフー。
日本は、“失われた30年”に苦しんでいる。2011年以降人口が減る中、経済成長率も1%台に低迷している。人口ピラミッドを見ても日本(と韓国)の先行きの厳しさが明確に見て取れる。厚生労働省の予測によると、2065年には人口は全体で約9000万人になり、15-64歳の生産年齢人口は4429万人となる(全体の60%を割り込む)。直近5年間で生産年齢人口は500万人減っている。
株式時価総額ランキングでは、1989年は上位10位中7社が日本企業であったが、2023年は上位10社に1社も入っていない(トヨタ自動車が日本企業で首位の39位)。日本の国際競争力も1992年までは1位だったが2023年は35位だ。名目GDPの上位6カ国比較のグラフでも、日本のみが右肩上がりになっていない。
アマゾン、ネットフリックス、グーグル、ウーバーといった企業がなぜ日本では生まれないのか。マネジメント方法は、製造業とテック企業・スタートアップでは大きく異なる。メーカーに代表される「タテの社会(日本はもともとそうだった)」は、教育・指導/上意下達/画一性/正解を早く正確に、がキーワードだった。しかし、インターネット企業の「ヨコの社会(米国はもともとこちら)」では、対話と議論の場作り=ダイアログファシリテーション/フラットに一人ひとり=1on1/みんな違ってみんないい=ダイバーシティ/自分の想いこそが大事=Lead the Selfがキーワードとなる。太字部分がまさにマネージャーに必要な要素である。
マネジメントとは何だろうか。マネージ(manage)とは“管理すること”ではなく「何とかする」こと。マネージャーとは「何とかする人」で、単なる役割であり、チームの力を最大化し、プロセスを明快にして導き、ゴールを設定してチームに共有してそこに導く存在だ。マネージャーは、そこに来たくなる心理的安全性の高い職場を構築し、言いたいことを言ってもらって個人の才能と情熱を解き放つことでチームの力を最大化できる。
大切なのはコミュニケーション。「1対1で話すこと=1on1 Meeting」が非常に重要だ。メンバーは成果を出すために日々努力し、公私含め多くの悩みや課題を抱えている。考え、話し、気づき、それを習慣にすることでメンバーは成果を出し、成長する。
1on1 Meetingとは、マネージャーがメンバーのために、定期的に時間を割き、メンバーの話に耳を傾けることを通して、目標達成と成長を支援する場。メンバーが話したいことをテーマにし/メンバーの振り返りを促進し/マネージャーがメンバーを理解しサポートするための時間である。
私が学部を作って伝えている「アントレプレナーシップ」(起業家精神)とは、“高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を創造していくマインド”である。アントレプレナーシップ学部(EMC)は、「社会の最前線」をキャンパスに展開し、アントレプレナーシップを育んでいる。(1)実践中心のカリキュラム (2)教員のほとんどが現役実務家 (3)1年次は全員、寮で共に学ぶ、を特徴としている。
実際に3年間運営してみて、刺激を受け(Input)、みんなで話してみて、やってみる(Output)ことの繰返しが大切であることを実感している。
大事なことは「みんなで話すこと」。夢をどんどん語ろう。武蔵野EMCでは、教員も学生もみんな人の夢を笑わない。自分のやりたいことを話すと、どれだけばかばかしくても「どうせ無理」とか絶対に言われない。結果として、みんな「自分の夢」を考え、口にし、踏み出す環境になっている。
The Best way to predict the Future is to Invent it.未来は予測するものではなく創るもの(アラン・ケイ)。プロダクトもサービスもチームも、自分たちで創っていこう。沢山話をして1on1も定期的に行って「未来をつくろう」。
■課題解決講演(1)
経営・人材戦略と社員との期待値ギャップをなくし、
組織変革につなげるためには
株式会社SmartHR
プロダクトマーケティングマネージャー
里井 惇志氏
京都大学卒業後、大手メーカーに入社し、調達業務に従事。その後、ITベンチャー企業に入社。プロダクトマーケティングマネージャーとして自社製品の企画・開発・利用促進施策の推進等を経験。2022年にSmartHRへ入社し、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」の「配置シミュレーション」「組織図・名簿」の企画・開発を担当。24年2月リリースの「キャリア台帳」は初期構想から一貫して携わる。
労働力人口と労働力率の低下により人材採用の難易度が急激に上昇しており、中長期的に、一人あたりの生産性の向上が重要な課題となっている。
企業は採用競争に勝ち、生産性の向上と環境の整備に尽力し、従業員一人ひとりを活かす仕組みを構築しなければならない。経営戦略と人事戦略を連動させるために、タレントマネジメントが重要になっているのだ。
◎SmartHRで実現するタレントマネジメント
タレントマネジメントの全体図と課題は以下のスライド参照。
「人事評価」から多数の矢印が伸びていることにお気づきだろうか。人事評価はタレントマネジメントのまさにコアだ。人事評価の運用をスムーズにし、公平感のある人事制度にして、従業員の期待値とギャップが生じることを防がなければならない。
しかし、評価データを人事施策に活用するのは容易ではない。評価と様々なデータを掛け合わせた分析ができていない/直近の評価を踏まえて従業員が活躍できる最適な人員配置を考えたい/評価データを従業員それぞれに合った育成計画に活かしたい、という課題を挙げる組織は多い。
既存の評価業務で手一杯/データが分散している/何をすべきか分からない……など、評価を人事施策に活用するまでの障壁は多い。クラウド人事労務ソフト「SmartHR」は、評価業務の効率化からデータ活用までを実現する。
評価シートや評価フローは柔軟にカスタマイズでき、従業員情報を用いて手間なく評価を開始できる。進捗管理や評価の甘辛調整を効率化する機能で、運用負荷を大幅削減。評価データと他の情報をかけ合わせた分析や活用までを、ワンストップで実現できる。
最新の正確な従業員情報を収集⇒評価シート作成・配布⇒わかりやすい進捗管理、スマホからも評価入力可能⇒評価データを集計・管理、スムーズな評価フィードバック⇒タレントマネジメント(キャリア台帳・スキル管理・配置シミュレーション・従業員サーベイなど)という流れが実現する。効率化できるからこそ、評価データをタレントマネジメントへ活用することが可能なのだ。
※評価前、中、後の各段階でのデモンストレーションあり(シート作成や甘辛調整、マトリクスなど)
現状の運用を再現する柔軟性の高い「評価シート」が特徴だ。評価シートおよび評価フローの設定を自由にカスタマイズでき、複雑な操作が不要で、現状に合わせた運用が可能。プリセットとしてさまざまな評価シートを用意しており、業績評価・情意評価・能力評価・MBO(目標管理)など、評価方法にあわせた評価シート作成をサポートする。
先述のように最新の従業員情報を参照しながらの評価が可能であり、部署・役職情報から評価者を自動設定することもできる。ひと目でわかる評価進捗で、期日遅れを防ぎ、効率的な甘辛調整もサポートする。また、スマートフォンからも評価入力・確認が可能だ(※スマホアプリ活用の動画あり)。
評価結果を蓄積・活用する機能もSmartHRには存在する。まずは蓄積する「キャリア台帳」について。タレントマネジメントに必要な、部署・役職・評価推移・保有資格やスキルなど、SmartHRの労務機能・人事評価・スキル管理などで収集した一人ひとりの情報を1ページでまとめて確認できる。収集した情報は、配置・昇進の検討や育成に活用できる。
次に活用する「配置シミュレーション」について。従業員情報や顔写真を一目で確認しながら配置のシミュレーションができる機能を持つ。ドラッグ&ドロップ中心の直感的な操作で配置の検討が可能。また、検討だけでなく配置案のデータベース反映や組織作成といった、配置業務の一連のオペレーションの効率化も行える(※デモンストレーションあり)。評価などの人事データを活かした人員配置が実現するのだ。実際、人員配置の成果が出ている企業は従業員のデータを活用している、という調査結果がある。また、データ項目を掛け合わせて分析できるマトリクス分析機能も持つ(※デモンストレーションあり)。
まとめると、集まる(SmartHRで収集した情報がキャリア台帳に自動で連携)⇒蓄まる(タレントマネジメントに必要な従業員情報をまとめて確認)⇒活用できる(データに基づく配置・昇進の検討や育成に活用)というタレントマネジメントの流れが実現する。SmartHRでは、データが自然と集まる・蓄まる仕組みによって使えるデータを活用できるタレントマネジメントを実現する。
■特別講演(1)
新東工業の人的資本経営の取組み
新東工業株式会社 人事部 部長
ISO 30414リードコンサルタント/アセッサー
澤井 実氏
1990年新東工業株式会社へ入社。2000年より人事制度の再構築に向けたプロジェクトに従事。活人主義のもと、人事関連の評価制度、処遇制度、人材開発制度、退職金制度の構築・改訂に従事。社内では、人材開発GM、人事部長、企画部長を経験後、ISO 30414取得推進プロジェクトリーダーを務め認証取得に貢献。現在は、人事部長兼企画・教育チームリーダー。
◎経営理念「HEART」 新中期経営計画 Co-creation
新東工業グループは、産業用設備機械の製造・販売・アフターサービスを通じて世界中のものづくりを支える「ものづくり企業」だ。世界22カ国に進出し、海外53社、国内22社によるグローバルネットワークを展開している。祖業は鋳造危機の製造販売。その他、表面処理や研磨、環境、メカトロニクス、粉体処理関連ほか多様な事業を手掛け、更に新しい分野の開拓を目指している。
経営理念は「信頼される技術を通して人間としての豊かさと成果を」。英訳の頭文字を取って“HEART”としている。新中期経営計画「Co-creation『共創~新しい価値を求めて』地球とともに、仲間とともに」を打ち出し、お客様との絆を深め、お客様から選ばれ続ける企業でありたいと考えている。また、会社は「社員が成長するための場になる」ことも人事のスローガンとして掲げている。
◎人的資本経営と「活人主義」 ISO認証取得と人事施策の展開
人材こそが当社の最大の財産だ。標榜する「活人主義」とは文字通り社員に生きがいを持って活きいきと働いてもらうという経営であり、社員の力を最大限に活かす経営だ。
当社が考える人的資本経営と活人主義について。「技能=経験=長期雇用」を認識してもらいつつ、入社から退社までの長い期間を見据え、個人の目標と会社の方向性のベクトル合わせを行っている。社員個人のスキルの向上を奨励し、頑張った人が報われる人事諸施策も展開している。
働きがいを実感できる会社にするために(1)大切な想いを仲間と語り合う (2)力を合わせてチャレンジする (3)社員同士が助け合いながら成長する、からなる「新東らしさ」を定義した。また、人事ポリシーも定めた。3本柱は、社員1人ひとりの成長/生きがい働きがいを共有する組織/働く環境づくり、だ。
ISO30414は、国際標準化機構(ISO)が定めた人的資本に関する情報開示のためのガイドライン(11項目)。この認証を当社は2024年3月に取得した。国内機械メーカーでは2社目。国内製造業では4社目である。
その目的は、人的資本情報の可視化・定量化である。詳細は以下。
・連続性のある情報を蓄積し、変化を見ることによる強みと弱みの把握
・永続成長を目指した企業経営の実現
・社内外のステークホルダーからの信頼性の強化
2020~22年の定量データから見る当社の課題は大きく2つある。
・人材の流動化の下「エンゲージメント」の向上が課題
・少子高齢化とD&Iの観点から「労働力確保」が課題
ISO認証取得と人事施策の展開は以下のスライド参照。このサイクルを回していくことで人的資本経営の好循環を図る。
先述の課題の一つ、エンゲージメントの向上に向けた各種取り組みも行っている。例えば、一人ひとりの成長を支援する人事制度、専門研修の実施、社内イベントやクラブ活動によるチームワークの醸成、仲間作りを促進し、組織力の向上と職場の活性化を狙う「同年の会」などである。もう一つの課題、労働力確保に向けた取り組みについて。ワークライフバランス実現に向けた支援や資産形成のサポート、独身・単身者生活サポートなど、安心できる環境づくりを行っている。
ISO認証取得と人事施策の展開といった各種取り組みによる成果は、まだ緒に就いたばかり。エンゲージメントや成長実感、仲間意識の数値は若干向上し、離職率は前年比マイナス53%となった。ヒューマンキャピタルレポートに「人材こそが当社の最大の財産」と記載し、トップが社員やその家族、ステークホルダーにそれを明確に示してくれたことはありがたかった。ISOを取ることで人的資本の定量化、そして、さらなる人事施策改善への道が拓けた。
■課題解決講演(2)
組織と個人のポテンシャル最大化
~情報格差をなくし、組織の新スタンダードをつくる~
株式会社ヤプリ
取締役執行役員COO
山本 崇博 氏
2019年ヤプリ入社。現在、取締役執行役員兼セールス・マーケ統括本部を管掌。これまで、外資系広告代理店、ゲーム会社を経て、前職のアイ・エム・ジェイでは、執行役員として、マーケティングコンサルティング部門を牽引。製造、通信、放送、流通、教育、金融など多業種にわたるクライアントを支援。人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげることが求められている昨今、経営の想いや方向性をしっかり理解した上で、いかに個のポテンシャルを最大化させるかが重要になっている。本セミナーでは、情報格差を解消し経営の思いを伝えていくことが、個人および組織の成長にどのように寄与するのか?アプリを活用した社内情報浸透の新しいスタンダードを追求している、各社様の事例を交えて紹介する。
当社のノーコードのアプリ開発プラットフォーム“yappli”は、企業のさまざまなビジネス課題を解決し、モバイルDXを加速させる。アプリは従来、顧客エンゲージメント向上のためにリーディングカンパニーや店舗・EC(電子商取引)で活用する例が多かった。しかし昨今は従業員エンゲージメント向上を狙い、社員向けに活用するケースも増えてきた。
そのようなHR Tech市場に対応するのが、「アプリで組織をひとつに」を標榜する“yappli UNITE(ヤプリユナイト)”。従業員エンゲージメントは、計測してデータとしては持っている企業は多い。しかし、エンゲージメントを“上げる”には、従来のやり方をブラッシュアップしテクノロジーも上手く利用して、生産性も上げつつ効果的に施策を打つ必要がある。
ミッション・ビジョン・バリューを掲げ、価値観の浸透を図る企業も増えている。しかし、企業の想いやコアな価値観の“伝え方”や共有・浸透方法に苦戦している企業は多いのではないだろうか。働き方の多様化が進む中で、経営者側は「経営方針・理念が浸透しない/社内ポータルがあるのに見てもらえない/価値観が共有されている組織にしたい」と、一方の従業員側は「会社の方向性がわからない/色々な情報があって探せない、見づらい/色々な人がいて考え方が擦り合わない」と悩む例は多い。
従業員エンゲージメントとは、組織と社員との関係を示す指標である。組織と社員が相互に信頼できる関係性を構築する、つまりエンゲージメント強化に重要な4つの視点は、(1)インターナルコミュニケーションの促進 (2)チームビルディング=働く仲間と繋がる・楽しむ (3)リスキリング=成長機会の提供で人材育成 (4)ウエルビーイング=従業員の健康と安全をサポート、である。
インターナルコミュニケーションの推進は大切だが、その情報単独ではなかなか見てもらえない。上記4つの視点および関連コンテンツを一つのプラットフォームに載せて、「使われる」アプリの中で理念浸透を図るチャレンジを始めている企業が増えている。(1)(2)のような意識変革のコンテンツと、(3)(4)のような従業員文脈のコンテンツを同じプラットフォームに収容し、繰返し使われることで様々な角度から企業理念や価値観が浸透していく、そんな事例を紹介する。
三菱UFJ信託銀行は、yappliをインターナルコミュニケーションの促進に活用している。スマートフォン+アプリの組み合わせにより、企業の理念や経営陣の声、会社のあらゆる情報を音声や映像(動画・ポッドキャスト対応)で高いセキュリティを保ちながら直接届けられる。
加えて、他部署の仕事を知りキャリアについて考えるきっかけを従業員に持ってもらえるコンテンツも多数アプリで見られるようにした。集合研修やタウンホールミーティングなどとの相乗効果で理念の浸透が図られている。ちなみに、アプリ画面に表示される「ロゴ」も三菱UFJ信託銀行オリジナル・アイコンにして、自社のブランドを意識させる工夫もしている。
会社で必要な採用を、アプリから簡単に共有してもいる。例えば、リファーラル採用の特設ページへの導線をトップページに配置したり、友人・知人への説明を簡単にでき、会社の魅力が伝わりやすいような工夫もしている。
オルビスはyappliを成長機会の提供で人材を育成する一助にしている。ビューティーアドバイザーが集合研修などで学んだことを生かし、さらに接客の質を上げるための自由な学びの機会を提供するためにyappliを活用。商品情報の確認やオンボーディング・サポート(育成や人事異動対応含む)、多数あるデジタル機器の操作理解などに説明販売スタッフの95%が自主的にアプリを利用している。アプリは自発的に頻度高く使うツールであり、スキマ時間なども活用しやすいというメリットもある。
当社(ヤプリ)内では、働く仲間と繋がり・楽しむためにyappliを使っている。異なる部署やグループ会社含む大人数で、QRコード交換によるゲーム感覚での活発な交流促進を行ったり、七夕の時期にはアプリに投稿された願いをオフィスの笹の短冊に実際に掲示したりした。コンテンツを簡単に作れる、追加できるメリットを最大限に活用している。
アプリには人と人、人と場所を繋げる効果があり、リアルとアプリを融合してオフィスでの会話のきっかけ作りに役立てている。また、各種研修やワークショップ後でもアプリで振り返ることができる環境を提供している。アプリは情報発信のみのツールではないのだ。
ワークショップ後でもアプリで経緯や内容を振り返れる環境を提供もしている。また、従業員の健康と安全をサポートするために、福利厚生ポイントや歩数などヘルスケアの数値やオフィスへの出社頻度に合わせてインセンティブを配布・付与する機能も使っている。
※yappli UNITEの動画デモンストレーションあり
台風、雪などの悪天候の日には、会社からメッセージを送ることができ、緊急時の安否確認も可能だ。また、閲覧状況などアプリ内の行動を把握する機能、サーベイ・分析で組織の状態を把握する機能も持ち、計測とアクションの複数のPDCAを効率良く回していくことができる。
導入企業からは、資料を探す手間が大幅に短縮/アプリ利用率95%/場所や時間を選ばずにアクセス/アプリが情報のハブに/社内資源を一元化し活用向上/愛着心や帰属意識が向上、といった嬉しい声が寄せられている。
アプリ導入活用の最初の一歩は、豊富に用意している「モジュール」を使って踏み出せる。運用しながら簡便にコンテンツ追加、ブラッシュアップを行っていただき、メッセージが浸透するアプリを作ることができる。インターナルコミュニケーションの促進/リスキリング/チームビルディング/ウエルビーイングそれぞれの機能が毎年、随時アップデートされる。月額定額制のサブスプリクション・サービス、yappli UNITEによるソリューションを活用していただければ幸いだ。
■課題解決講演(3)
AI×心理学によるコミュニケーション改革
~人的資本経営においてエンゲージメントが機能しない理由~
EQIQ株式会社(Attuned運営会社)
創業者・CEO
ケイシー・ウォール氏
2010年、EQIQ株式会社を起業。組織心理学をビジネスの現場で応用した全く新しいサービスとして、モチベーション可視化を通じてマネージャーの人材マネジメントの支援や人材教育に応用するAttunedサービスを展開。米国ニューヨーク州出身、サウジアラビアなどで育つ。大学卒業後、日本に移住。人材コンサルティングや複数のITサービスを立ち上げた後、14年にIEビジネススクールにてエグゼクティブMBAを取得。多様な文化経験はAttuned開発の原点になっている。
現代の世界は「アメとムチ」によるマネジメント=“Stick and carrot”アプローチが主流だ。しかし、効果的なインセンティブはあまりなく、叱ったり厳しくしたりすることもやる気や能動にはつながらない。つまり、アメとムチはエンゲージメント向上において盲点となる。「Attuned.ai」はアメとムチによるマネジメントから転換させることを目指している。
大きな組織は、部課によりマネージャーの質と部員のやる気にバラツキがある。また、トレーニングをしても終わると忘れられ元の習慣に戻るなど、効果は限られる。トレーニングに費やす時間とお金の割には、期待されるリターンが少ない。
最近、どの企業でも行われるようになった社員満足度調査やエンゲージメント調査にも長所と短所がある。例えば長所は「従業員が何を考えているか測定できる!」、短所は「ほとんどのマネージャーがエンゲージメントデータを活用しない」だ。ビッグデータを得られることは良いことだが、個々の従業員へのアクションプランまでには落とし込めていない。日本の典型的な組織は、熱心な従業員が6%、精神的・身体的に離職プロセスにある層が89%と多く、離職層が5%だ。
従来、チームメンバーの仕事への本当のモチベーションを知ることは不可能だった。しかし、心理学者によって開発されたAttunedを使えばどのマネージャーも正確にチームメンバーの内発的動機づけ=INSIGHTを知ることができる。特に自分とは全く異なるメンバーの動機を知り、個別に動機付けすることができる。また、メンバーを離職プロセスからより生産的なレベルに引き上げ、完全に動機づけられるように機能する。
アメとムチの時代は終わり、これからは「内発的動機づけの活用」がマネージャーに新たな力を与える。メンバーが動機づけられるために必要なものは何か?それは内発的動機=より多くのエネルギーである。Attunedは全てのメンバーの内発的動機付けの発見を支援する。簡にして要を得たより良い1on1などによる正確なコミュニケーションがメンバーの本音を引き出し、より多くの信頼感をもたらす。コミュニケーションスキルの高い上司になれるのだ。
Attunedはマネージャーやチームの動機ギャップを瞬時に把握・可視化し、コミュニケーションをパーソナライズするためのヒントを画面上で分かりやすく提示・提供する。また、すべてのマネージャーとメンバーに毎日、個別にカスタマイズされたヒントを提供している。期待される効果は、マネージャーの人材管理における負担軽減/メンバーが「上司を管理」しやすくなる/メンバー同士の理解が深まる、など。
また、内発的動機を使った新機能として、「AIトークコーチ」がリリースされた。例えば、新プロジェクト割り当てのメール作成なども自在だ。プロジェクト内容や自分(上司)のモチベーション、部下のモチベーションをセレクトし入力すると“この部下にはこのように(このような)メールを書くとより効果的”とAIがより相手のモチベーターに刺さりやすい文面にメールを書き換えてくれるのだ。
内発的動機のユニークなデータとAIの力により、Attunedは忙しいマネージャーに、メンバーに合わせた適切なコミュニケーションのポイントとアクション例を提供する。
・現在の状況=As-is:マネージャーが忙しすぎてコミュニケーションに問題あり、メンバーを理解しておらず、何をすべきかわからない。
・未来の姿=To-Be:心理学×AI「AIトーク」がマネージャーに新たな力を与える。
To-Beのマネージャーは、全員がやる気のあるチームを率いることになるだろう。
Attunedのビジョンは「人々の間に存在する、そしてそれを取り巻く心理的データを、ただ可視化するだけでなく、測定可能で実行可能なものにすること」である。
(講演者が伊藤氏に交代)
◎AI×心理学
上司のチーム内コミュニケーションをUpdate~世界初のモチベーションを可視化するHRテックがAttunedだ。
「人的情報の見える化」は政府の目玉政策であり石破内閣でも継承されている。2023年3月期決算以降、上場会社に義務化された。人事もデータドリブンの世界にようやく入ったのである。人的資本経営とは、組織を構成する人々が保有する累積的な知識、スキル、能力を発揮することにより、組織が目指す成果を中長期に負やすことに繋がる競争優位性の源泉だ。経営視点ではアセットそのもの(B/S)であり、投資による収益貢献が期待される。
ただし現状、人的資本を開示した企業は76.5%程度であり、開示後に経営戦略(改善)まで結びついた企業は10%に満たない。HOW=どのようにやるか、データをどう使うか、が大切だ。
Attunedは組織心理学者の知見に基づき、内発的動機(自身の内部から生まれるやる気)に影響する要素「モチベーター」を11個に整理。個々の“やる気スイッチ”の可視化、コミュニケーションの改善を支援する。
例えば私自身のモチベーターレポートを見ると、「成長」「利他性」「ステータス」「創造性」「社交性」が上位に来ており、「安全性」は最下位であった。このように、自分でも気づいていなかったモチベーションの価値観が明確に分かる。
Attunedは(1)モチベーションの価値観のデータ化 (2)1on1ミーティングの前に相手のモチベーションを引き出すヒントを提供 (3)AI Talk Coachで具体的にどう伝えたら目の前の部下に響きやすいかを提案 (4)AIが1on1ミーティングでの上司部下の会話の強弱/内容の解析、というサイクルを回し、How(改善)をサポートする。(可視化)⇒How(改善アクション)⇒やる気スイッチON⇒エンゲージメント向上、という流れを作る。
データを活用して人材マネジメントに活用するという人的資本経営の考え方として、大きく期待ができる考え方だ。
導入企業は既に300社以上ある。離職率防止/エンゲージメント/採用活動/ダイバーシティ/世代間ギャップ/チームビルディングで課題をお持ちであれば、ぜひ相談していただきたい。
■特別講演(2)
組織開発 -理論と実践
~組織はどこに向かって、どのように変えるのか~
株式会社壺中天 代表取締役
「図解 組織開発入門」 著者
坪谷 邦生氏
20年以上、人事領域を専門分野としてきた実践経験を活かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、書籍、人事塾などによって、企業の人事を支援している。1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。08年、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。16年、アカツキ社の「成長とつながり」を担う人事企画室を立ち上げる。20年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立し現在。
slido.comを利用し、双方向性を持たせた講演とする。
「人事」とは「人を生かして事をなす」。一人ひとりの力が十全に発揮され、組織の目的が成し遂げられる状態、つまり「人」と「事」を同時に実現することが「人事」だと私は考えている。自著の『図解 組織開発入門』(ディスカバー21刊)の内容を元に話を進めたい。
そもそも組織とは何か?組んで織りなす。組むとは目的で、共通の目的を目指していること。織りなすとは協働で、一人で行うより効果があがること。組織開発とは何か?組織をよくするため、実践者の価値観をベースに、人と人の関係性へ働きかけることだ。これは、National Training Laboratories(NTL、国立トレーニング研究所)を創設したクルト・レヴィンらの“Tグループ”から始まった。
よい組織とは?組織モデルは様々。まず、自組織が目指す姿を定めることが重要である。フレデリック・ラルー著の『ティール組織』のパラダイムは、協働に関するブレイクスルーによって組織は飛躍してきた、というもの。「識学」というマネジメント理論を展開する安藤広大著の『リーダーの仮面』では、リーダーは仮面を被り冷静に淡々と成果を出すことが肝要と説いている。自社の組織が目指す姿を定める際の参考にされたい。
組織開発のやり方は?先述のヒューマン・プロセス、関係性の働きかけとして大きく二つで、診断型組織開発と、対話型組織開発がある。
診断型組織開発の代表は、サーベイ・フィードバックだ。サーベイで(1)見える化(組織・チームの状態をデータとして可視化)する。そして、フィードバックとして(2)対話(可視化されたデータに現場と関係者が向き合い対話)、(3)未来づくり(将来のあり方を自分たちで決めてアクションプランを得る)を行う。(1)~(3)のサイクルを回すべきだが、(1)で留まっていて(2)まで進んでいない会社が多い。
対話型組織開発の代表は、ホール・システムアプローチだ。みんなで集まって話す手法で、以下の4つに大別できる。
・AI:組織の問題ではなく「強み」に注目した組織開発の方法論
・フューチャーサーチ:利害の異なる関係者が一堂に集い、協力関係を築き、ともに目指す未来を描く、組織開発の具体的な手法
・オープンスペース・テクノロジー:参加者が話したいことを自ら提案して、主体的に進める対話の手法
・ワールドカフェ:リラックスした緩やかな会話を、小グループでメンバーを入れ替えながら行う対話の手法
組織開発でもっとも重要だと言われる実践者のあり方とは?『NTLハンドブック~組織開発(OD)と変革』によると、人間尊重(人間を信じる)、民主的(みんなで考える)、クライアント中心(自分が中心ではない)、社会・環境志向(世の中のために)が、チェンジエージェント=実践者のあり方である。「ユース・オブ・セルフ」、変革ツールは自分自身の価値観なのである。自分を磨かなければならない。
あり方が正しければ、どのやり方でも組織開発だ。
冒頭述べたとおり「人事」とは「人を生かして事をなす」。まずはあなたが自分自身を生かすところから始まる。
2024年9月20日(金) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局