令和を生き抜くヒントは昭和の日本式経営にあり

「経営の正解」は変わった

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 昭和はインフレ下の経営の時代だった。それからの企業経営は、デフレの平成時代に1度目、そしてインフレが続く令和で2度目の歴史的大転換期を迎えているのかもしれない。インフレからデフレへの経済上の変化は、「インフレだと費用が上がり、デフレだと売上が下がる」といった些末な問題では済まない。経営における正解が180度変わるのだ。

 議論の出発点として、経営の二大資源である人(および人が作る物と情報)とカネに注目する。定義からしてインフレ下ではカネの相対的価値が下がり人の相対的価値が上がる(人の給与や人が作った製品の売上が上がりやすくなる)。反対に、デフレ下ではカネの相対的価値が上がり人の相対的価値が下がる。インフレ下では人が相対的には希少な資源であり、デフレ下ではカネが相対的には希少な資源であるため、デフレ下ではカネ集めが難しくインフレ下では人集めが難しい。

 このとき経営には大原則が存在する。「希少資源を集める企業が経営に成功する」という原則だ。数多くの研究で検証された定型化された事実(stylized fact)・法則でもある。

大転換した「経営の正解」

 高度経済成長期のインフレ下における経営では、相対的な希少資源である人に好かれる経営が正解となった。戦後日本の急成長は慢性的な人手不足をもたらし、人の囲い込みが企業の競争優位につながった。こうした囲い込み施策のひとつが、典型的には製造大企業に多くみられた終身雇用・年功序列・企業別労働組合の諸制度だった。ただし、これらは当時から大部分の中小企業には採用されていない不完全なものだったし、それどころか過去の日本式経営の本質はここにはない、と筆者は考える。

 むしろ昭和の日本式経営の本質は「人こそが貴重な資源だ」と認識する点にある。だからこそ、松下幸之助、本田宗一郎などの名物経営者は、人という貴重な資源を無駄にしないように、無駄な労力を使わせるだけの仕事を減らし、人が本来の仕事=価値創造に集中できる状況を作り上げていったわけだ。

松下幸之助(左)と本田宗一郎 ©文藝春秋

 人が最重要な経営資源ゆえ、日本企業はOJT、QCサークル活動、改善活動といった「すべての人に開かれた経営教育」を通じて、経営知識と経営意識の格差も解消していった。経営知識・意識を高く持つ人とそうでない人が組織内に偏在すると、経営は「自分には関係ない。あいつらがやること」という感覚が蔓延する。それでは経営者層と従業員層が互いに足を引っ張り合い、人という貴重な資源が浪費される。日本企業はこの陥穽を経営教育によって乗り越えた。原理的にすべての人が経営者候補となる時代状況の下、格差が縮小されつつ経済成長も実現されたのである。一億総中流時代だ。

 この流れを止めるどころか逆転させてしまった契機は、日本の急成長を警戒した国際政治によって生まれたプラザ合意であろう。アメリカの呼びかけで、イギリス、フランス、西ドイツ、日本が協調して円高・ドル安を目指すことに決まり、日本社会においてカネの相対的な価値は急激に(数倍にまで)上がっていった。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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