行商人が隠密的な役割を果たしていた
磯田 この度宮本さんが第一巻を上梓された『潮音(ちょうおん)』(全4巻。小社より順次刊行)は、越中富山の薬売りを主人公に、幕末から明治初期の日本を描いた壮大な歴史小説です。歴史小説を書かれたのは、はじめてでしょうか?
宮本 ええ、何もかも手探りで、結局書くのに足かけ10年もかかってしまいました(笑)。磯田さんは『無私の日本人』(文春文庫)で、大田垣蓮月をはじめとする江戸時代の人物たちを、あたかも目の前で生きているかのごとく書いていらっしゃる。今日はその秘訣を伺いたいと思って来ました(笑)。

磯田 尊敬する宮本先生に褒められると本当に嬉しい。恐縮すぎて、穴がなくても、どこかに入りたくなります。坂本龍馬のようなヒーローが主人公の幕末歴史小説は珍しくありませんが、ご作品の『潮音』は異色です。無名の庶民の眼からこの時代を描いていました。
日本では幕末から明治にかけて、人類史上例を見ない大変化が短時間に起きました。福沢諭吉は『文明論之概略』の緒言で「一身にして二生を経る」経験と書いています。西洋化、近代化を受け容れるなか、一人の人間が二度の人生を生きるほどの変化を味わい翻弄されたわけです。
この大変化は、武士だけが経験したわけではありません。庶民も同じでした。『潮音』を拝読して、それを肌身に感じました。
宮本 ありがとうございます。
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