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「多くを教わりました」

 渡辺さん自身も、代表作『逝きし世の面影』を始め、多くのファンを持つ評論家・思想史家だ。最近では、『バテレンの世紀』で読売文学賞(評論・伝記賞)を受賞している。渡辺さんが書き手として石牟礼さんから学んだものは大きかったという。

石牟礼氏と渡辺氏(1970年代前半)

「多くを教わりました。彼女が私から学んだものはない。損得勘定では、私が一方的に儲かっているんです(笑)。実務的な手伝いをやったことの元はきちんと取りました」

「僕は、都会で育った学校秀才タイプ。小市民の生活しか知らない。日本の庶民の精神世界については、柳田国男や折口信夫を読んで自分なりに学びはしたけれども、本当に教えてもらったのは、石牟礼さんからです。『西南役伝説』がそもそもそういう作品。『苦海浄土』も単に水俣病のことを書いたのではない。日本の近代化と取り残された前近代的な民衆の精神世界が作品のモチーフです。『椿の海の記』はとくにそうで、僕はこれを全部清書したわけだから、そこで教わったものは大きかった」

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「文藝春秋」2019年3月号

 渡辺さんが、現在の心境と石牟礼さんとの思い出を語った「作家・石牟礼道子に捧げた我が半生」の全文は、「文藝春秋」3月号に掲載されている。