Yahoo!ニュースに死角はないのか?
スマホを軸としたネットニュース界は現在、Yahoo!ニュースを筆頭に、LINE NEWSやスマートニュース、dmenuニュースなどが総合ニュースサイトとして競争する構図だ。ガリバーであるYahoo!ニュースの首座は当面揺るがないとしつつ、奥村氏はネットニュースには大きな問題があるという。端的に言えば、「ネコの様子もニュース」といった路線が拡大した結果、政治・経済などを軸とした「民主主義社会を支えるニュース・ザ・ニュース」の提供空間が減り、社会問題の本質が見えにくくなるのではないか、という懸念だ。
「実はネット企業の経営者は、記事の内容そのものにほとんど関心を持っていません。低コストで高アクセスの記事がいい記事です。PVや滞在時間などの数値をボリュームで見て評価する。経営だから当然ですが、この傾向が強まれば、ニュース・ザ・ニュースの先行きは非常に厳しい。『PVも大事だけど、数字では測れない大事なことが世の中にはたくさんあるよね』という視点を、ネット企業の経営者がどこまで形にできるか。そこが最大のポイントでしょう」
「この6月にスマートニュースが調査報道を支援するスローニュース社を立ち上げました。単に取材経費を提供するのではなく、調査報道を継続的に生み出す『エコシステム』をつくると言っています。これは画期的です。このなかから新聞社顔負けのニュースを提供するネットメディアも育ってくるでしょう。おりしも毎日新聞が200人の早期退職を募集しています。取材や執筆をはじめとした新聞社の核となる編集機能が流出しており、編集機能が未成熟なネットメディアにとっては技術移転を図る絶好の機会になっています」
「真面目なニュース空間、言論空間が社会から消え、公共空間が狭まるとしたら、それはとても怖いことです。でも結局、数字はユーザーがつくっている。『トランプ政権よりエンタメのほうがPVを稼げる』というデータが出れば、事業者はエンタメに傾斜していく。逆に政治や国際のニュースがPVを稼ぐとなると、事業者はそっちに傾く。鍵はユーザーです。読者に寄り添えるネットメディアならそうしたユーザーの興味を喚起する記事が書けるでしょう」
奥村氏は5年ほど前にYahoo!ニュースを離れ、子会社の経営に携わっていた。最近は「ヤフーは10月の事業再編を控え、金融やショッピングに本腰を入れ始めたことで、メディア事業への関心が小さくなってきた」と言う。数字を追いすぎ、トップに置く記事には、エンタメや事件事故の偏重が目立つ。記事の内容と合致していない煽るような見出しも多くなってきた。「ニュースとは何か」を考え続けた中堅や若手も次々に転職しているという。
「マネーや美容といった読まれるニュースを制作するメディアは既に飽和状態です。今後は、核心を突くインタビューとか、深掘りのルポとか、調査報道とか、そういう分野での競争も始まるでしょう。そこを見通しているネットメディアは既にその方向に動き始めているかもしれない。私自身は今後、大学での教育や研究を軸にしつつ、機会があれば、会社の枠を超えてニュースに関するサービスのサポートを手掛けたいと考えています」