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 森で王子に会い、さまざまな試練を乗り越え、というか思いもよらぬ魔法使いからの手助けと、とにかくなにがなんでも舞踏会に行ってやる! というエラの執念(にしか私には見えなかった)によって、エラは舞踏会に現れます。きらびやかな舞踏会を屈託のない笑顔で見つめるエラに、私の呼吸はなぜか浅くなりました。

 そもそも、森で偶然エラに出会った王子が「もう一度彼女に会いたい」と彼女を見つけるために開催した舞踏会です。森では王子に尋ねられても自己紹介すら満足にしなかったエラですが、なんとかして舞踏会に出向かねば、仕掛けた時限爆弾(王子が苦労してエラを探し出す)が作動しません。毎日毎日嫌なことばかり続いているのですから、そりゃあ舞踏会にも行ってみたいでしょう。その気持ちはわかる、わかるんだけど、どうにも胸がむかむかする。森では狩りを楽しむ王子をたしなめ他の女との差別化を図り、舞踏会にはおめかしして出掛けるなんて、姑息ではなかろうか。

 そんなことを思ってしまったからでしょうか。私の目には、エラの微笑みが勇気と優しさを湛えた……というよりも、無邪気に図太く映るのです。え? 舞踏会に遅れてきて、なんでいちばん目立つ場所(ダンスフロアを見下ろす階段の踊り場)で今日イチの笑顔ができる? 衆人環視のもと、王子と二人、周りが見えないような顔で踊れる? エラの横顔に、形見のドレスを継母に破られた女の闇は見えません。「わーい! 舞踏会に来られた!」という主体的な喜びが、全身から溢れているのです。「来られた!」ってあなた、王子に見つかりに来たんでしょう!? しかも魔法のせいにして、あっという間に王子の前から消えるし。どうかと思うよ。

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 エラは二度も王子に自分を「見つけさせて」います。一回目は舞踏会。二回目はガラスの靴云々。そりゃーオスっ気の強い男性なら誰だってエラのことを「自分で苦労して見つけた宝物だ!」と思い込むでしょう。策士!

 伝わりますかね、この違和感が。自分から仕掛けておいて、王子には「俺が見つけた」と思わせる。楽しい時間を共有したあとは自分の意思で王子の目前から消えておいて、それを「魔法のせい」にする。しかし、ヒントは抜かりなく残す。不可抗力のなせる業に見えますが、本当にそうでしょうか。

 たとえば私がシンデレラだったら。王子と森で別れた途端、イチャモン付けから始まった出会いを後悔し、帰宅早々「あーやっちまった……絶対嫌われた」と頭を抱えてベッドになだれ込むでしょう。舞踏会の知らせを聞けばエラと同じように必死で行く努力をするけれど、「舞踏会って素敵そうだしぃ~」なんて建前は、もっと見え透いた嘘として周囲に映るに違いない。魔法使いが素敵なドレスを出してくれても「あ、もうちょっと地味なのないすかね?」と注文をつけるでしょう。舞踏会に行ったら行ったで「いや、ちょっと、顔出してみただけでしてデヘヘ」なんて卑屈な態度で王子の周りをうろちょろする。ダンスに誘われたら「いやいやいやいや、ダンスはちょっと」と尻込みしてお仕舞い。あんなに堂々としていられません。エラ、恐ろしい子……!

 映画が終わり、明るくなった劇場で同行者の女子がポツリこぼしました。「結局、スペックの高い男と結婚できるのはこういう女なんですよね……」まさに。彼女も私と同じ感想を持ったようです。エラよ、日ごろボロカスに扱われているのにもかかわらず、どうしたらあんな自信たっぷりに振る舞えるのか。

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