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リクライニングシート問題の傾向と対策 理想の角度はこれだ

プロが教える「旅の新常識」

2017/04/29
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リクライニング騒動で9日間に緊急着陸が3回

 しかし、リクライニングについてあれこれと物議を醸すようになったのは、比較的最近という印象が強い。アメリカでこのことが大きな問題となったのは、2014年の夏だった。

 リクライニングをめぐって乗客どうしが揉めて、緊急着陸。それはユナイテッド航空国内線で起きた。48歳の女性がリクライニングしようと試みたができないので、客室乗務員を呼んだ。実は真後ろに座っていた48歳の男性が「ニー・ディフェンダー(膝を守る装置)」と呼ばれる、前席のリクライニングを阻止する器具を取りつけていたことが原因だった。この男性は身長が約185cm。大柄であるうえ、出張で年間7万5000~10万マイルを飛ぶ男性のために、妻がクリスマスプレゼントとしてくれたものだった。これまでこの器具を使ってトラブルになったことはなかったという。

 乗務員はこの器具を外すように要求したが、男性は拒否。これに怒った女性が男性に向かってスプライトの入った紙コップを投げつけた……。

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 この事件を含めて、リクライニングをめぐるトラブルが原因での緊急着陸が9日間に3回も起きて、アメリカでは大きな問題として報じられた。

 この「ニー・ディフェンダー」は、前の座席のトレイテーブルの支えに取りつけるU字型のグリップ状の機器。2003年より21.95ドル(2426円)で売られていたが、2017年4月現在、取り扱いはない。

リクライニングを強制的に阻止するニー・ディフェンダー
http://www.gadgetduck.com/goods/kneedefender.html

 アメリカ連邦航空局(FAA)はニー・ディフェンダーの使用を禁止していない。しかしアメリカのほとんどの大手航空会社、カンタス航空やジェットスター航空などが使用を禁止している。それ以外の航空会社でも使えない可能性が高いと考えた方が無難だろう。

 ちなみにこのトラブルの直後にグーグルが行ったオンライン調査によれば、約66%が「ニー・ディフェンダー」の使用に反対。女性や高収入層(年収1100~1760万円)では、特に反対する人が多かった。

 日本のエアラインもアメリカのエアラインも、エコノミークラスのシートピッチ(前後の座席の間隔)はほぼ同じ。もともとアメリカ人は日本人よりも体格が大きいうえ、かつてよりも平均身長・平均体重は増えている。これではトラブルも頻発するわけだ。

各交通機関のリクライニング角度は?

 リクライニングの議論をするうえでおさえておかなければならないのは、交通機関・シートピッチ・所要時間・昼か夜かなどによって、条件が大きく異なる点だ。東京から大阪までの1時間のフライトでのリクライニングを非難したとしても、所要時間12時間の夜行バスでの使用に否定的な人は少ないのではないだろうか。

 では、各交通機関の標準的なリクライニング角度とシートピッチはどうなっているのだろうか。

新幹線普通車 非リクライニング時 3度・104cm
新幹線普通車 リクライニング時  28度・104cm
新幹線グリーン車 非リクライニング時 8度・116cm
新幹線グリーン車 リクライニング時  34度・116cm
国際線エコノミークラス リクライニング時 13~20度・79~86cm
国際線プレミアムエコノミー リクライニング時 24度・97~107cm

 小籔氏のツイートで問題となった新幹線は、飛行機のエコノミークラスの標準的なシートピッチよりも25cm広い104cm(普通車)。新幹線普通車の座席はもともと3席を進行方向に180度回転させるため、リクライニングしない状態では垂直に近いという点もおさえておく必要があるだろう。