籠池泰典 森友学園前理事長
「安倍首相または夫人の意志を忖度して動いたのではないかと思っています」
ハフィントンポスト 3月24日
今年の流行語大賞に間違いなくノミネートされるのが「忖度」という言葉だ。疑惑の闇の底にあったのは「あまりにも日本的な構造」の存在だった。
もともとは民進党の福山哲郎議員が3月6日の国会で「近畿財務局だって、財務省だって、忖度するでしょう」と発言。新設予定の小学校の名誉校長の座に就いていた昭恵夫人と、森友学園の教育方針を絶賛していた(と昭恵夫人が語っていた)安倍首相の存在が、国有地の売買に影響を与えたのではないかと質問した。それに対して安倍首相は「忖度した事実がないのに、あるかのことを言うのは、典型的な印象操作なんですよ」と声を荒げている(ハフィントンポスト 3月7日)。
流行語大賞最有力? 「忖度」の意味
さらに3月23日、国会での証人喚問の後に日本外国特派員協会で行われた記者会見で、当事者の籠池氏自ら「忖度」という言葉を口にした。「安倍晋三氏や昭恵夫人の直接の口利きはあったのか?」という質問に対して「直接ではなかったが忖度があったと思う」と答えたのだ。「忖度」という言葉の英訳に通訳が苦心するという一幕もあった。
広辞苑で「忖度」をひくと「他人の心中をおしはかること。推察」とある。「他人の気持ちをおしはかるのは日本人の美徳」と語る人もいるが、近現代史研究家の辻田真佐憲氏は「官僚制は上の立場のものには忖度し、下の立場のものには忖度させようとする」と指摘している。その最たるものが戦前・戦中の検閲で、官僚は出版社や雑誌社に忖度させて、効率的に業務をすすめたという(文春オンライン 4月4日「森友問題で一躍注目 「忖度」の傾向と対策」)。脳科学者の茂木健一郎氏は森友学園問題について「『忖度』という、あまりにも日本的な構造をうんざりするほど見せられている」と記した(ブログより 3月23日)。
経営コンサルタントの大前研一氏は「道徳検定、教育勅語…「忖度」行政は我が国の文化に反する」と題した記事で、「教育勅語」を学校で教材として用いることについて松野博一文科相が「問題ない」と語ったことや文科省の道徳の教科書検定で「パン屋」が「和菓子屋」に差し替えられたことについても安倍首相と政府の意向を周囲が忖度した結果だと解説し、これらの忖度は「思っていることを口に出さずに裏で根回しする、いわゆる『腹芸』を得意とする安倍政権の政治手法と無縁ではないだろう」と考察している(『週刊ポスト』 5月5日・12日号)。証拠が残らず、責任もいらない「忖度」は、縦社会の上にいる人たちにとって大変使い勝手の良いものだ。「忖度するのが当たり前」と思っていたら、あっという間に「忖度させられる」ことになると思うよ。