1月からの名言、珍言、問題発言を振り返る。今回は経済編。創業142年の名門企業・東芝がいよいよ危機を迎えている。矢面に立つのは、昨年6月に社長に就任した綱川智氏だ。綱川氏が記者会見で頭を下げる光景はすでに見慣れたものになった。
綱川智 東芝社長
「ウソのない体質を、という言葉を胸にがんばっていきます」
東洋経済オンライン 3月31日
3月29日、東芝は米国の原子力事業子会社ウエスチングハウスが日本の民事再生法にあたる米国連邦破産法第11条(チャプター11)を申請したことで、2017年3月期の決算見通しが1兆円を超える赤字規模に拡大する可能性があると発表した。製造業では過去最大となる赤字額である。これが“国策”とも言われた原子力事業に突き進んだ結果だ。
翌30日、東芝は半導体メモリ事業の分社化を承認するための臨時株主総会を開催したが、3時間半に及ぶ総会は当然ながら経営陣に対する罵倒の嵐が吹き荒れた。冒頭の言葉は、ひたすら低姿勢を貫いた綱川社長によるもの。「そこから!?」という感じもするが、このような小学校のお約束のようなことが守れないところから1兆円の赤字は生み出されてしまったのだ。
そもそも東芝の危機は巨額の不正会計から始まっている。インフラや半導体、パソコン事業で損失計上を先送りにし、巨額の粉飾決算を行っていた。当時の経営トップは高い収益目標を「チャレンジ(挑戦)」と表現していたが、この言葉で業績の改善を求められると、従業員は無理をして達成する必要があると受け止め、不正会計が広がっていった可能性がある。日経ビジネス編集委員の山川龍雄氏は、上司に対する「忖度」が蔓延していたのではないかと指摘している(『日経ビジネス』 4月10日号)。
東芝は原子力事業についても一貫して「順調だ」と説明してきたが、実態はかけはなれていた。これがまさに「ウソの体質」だ。東芝再建の道は「ウソ」をなくするところから始まる。
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高橋幸美さん 高橋まつりさんの母
「繁忙期であれば、命を落としてもよいのでしょうか」
朝日新聞 3月13日
今年上半期のもう一つの経済に関する大きな話題は「働き方改革」についてのものだ。アベノミクスの「三本の矢」と「新三本の矢」がなかなか効果を発揮しない現在、この「働き方改革」を「安倍政権の一丁目一番地」と評する声もある(ダイヤモンド・オンライン 4月26日)。
3月28日、政府は働き方改革実現会議を首相官邸で開催して実行計画をまとめた。安倍晋三首相は「日本の働き方を変える歴史的な一歩。17年は出発点と記憶される」と発言している(日本経済新聞 3月28日)。
目玉は「長時間労働の是正」と「同一労働同一賃金の導入」だ。特に前者に関しては、「原則月45時間、年間で360時間」と上限を設けることで、政労使間で合意した。ただし、特に忙しい月は特例として100時間未満の残業を容認することになった。これに断固として反対する声明を出したのが高橋幸美さんだ。幸美さんは広告大手、電通の新入社員で過労自殺した高橋まつりさんの母である。
安倍首相は2月に幸美さんと面会し、長時間労働の是正策に関して「なんとしてでもやりますよ」と語っていたが(産経新聞 2月21日)、結局は経団連側が主張していた「100時間」を「100時間未満」にすることしかできなかった。100時間といえば、20日働いたとして毎日8時間に5時間プラスすることになる。当然、帰りは深夜になるだろう。
幸美さんは3月13日に出した声明の中でも、「月100時間働けば経済成長すると思っているとしたら、大きな間違いです」「繁忙期であれば、命を落としてもよいのでしょうか」と政府案を痛烈に批判した(朝日新聞 3月13日)。
新書『なぜ、残業はなくならないのか』の著者であり、千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏は、残業がなくならない理由を日本の雇用システム、労働市場にとって「合理的」だからであるとして、「問題の本質的な解決のためには、仕事の絶対量、任せ方の改善に踏み込まなくてはならない。単なる改善を改革と呼んではいけない」と指摘している(現代ビジネス 4月25日)。規制強化は必要だが、それだけで長時間労働問題が解決するとはとても思えない。今後どのような議論が行われるかに注目したい。
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瀬戸欣哉 LIXIL社長
「放射能の影響で大きくなりました」
毎日新聞 2月15日
最後はLIXIL社長による失言を。環境省で山本公一環境相と意見交換を行った際、瀬戸氏の体格の大きさが話題になったときの返答がこれ。
瀬戸氏は「冗談だった」と釈明したが、福島県の内堀雅雄知事は「放射能の問題について、誤解や偏見がないようにすることが大切だ。福島県は農産物や観光などで、いわれのない誤解や偏見により非常に苦しい思いをしている」と苦言を呈した(日本経済新聞 2月16日)。LIXILはその日のうちに公式サイト上にお詫び文を掲載し、大きな炎上には至らなかった。瀬戸氏は胸をなでおろしたことだろう。でも、忘れていない人もいるので、冗談には注意したほうがいいと思う。