★伸ばした語尾が「ア」の言葉のみを使った「a物語」、iのみの「i物語」。言葉を集めるだけでも一苦労なのに、物語を書いてみると……?
「e物語」
衛生兵・エディ「ペレ、攻めて攻めて! ペレ、てめえ、蹴って、蹴れ! てめえ、寝てれ!」
衛生兵・テディ「メーデーってデケえね。え、ゲーテで寝れって? ヘッセでええ? ヘレネ、せめて手で愛でてね。」
ヘレネ「エディ、レゲエ消せ。テディ、出てってね。出れねーって? 出てけ。」
圧倒的に苦労した。普通の書き方ができず、会話調くらいにしかしようがなかった。「で」と「へ」という貴重な助詞がありながら、ともに使い方がやたらと限られるので難しい。そもそも前回でも書いたように、「eの音」が連なる和語が非常に少ないので、使えるボキャブラリーだって限られる。名詞も助詞もろくに使えないとかどうしようもないぞ。「衛生兵(ええせえへえ)」や「エディ(えでぇ)」みたいなギリギリ技に頼るしかないね。ただ、「寝てれ」とか「消せ」とか命令形が使えるので、他の音のグループとはちょっと違ったムードを醸し出せる。「デケえね」「出れねーって」みたいな砕けた口語を使用できるのも「eの音」ならではだ。難しいけれど、独特のムードが好きな人には癖になる味を生むのが「eの音」ワールドだ。
「o物語」
この子どこの子? 大友ジョー。能登の子よ。この男の子も? 豊幌の子と忍路(おしょろ)の子よ。お伴の祖母(元保母)の保護のもと、この世の諸々の教養を強要とのこと。コートもうぼろぼろよ。ポロの泥を落とそうよ。
この子どこの子? 東條今日子。よその子よ。少女のこころの男の子よ。祖母の小言も所与のこと。午後も琴をぽろろぽろろ。この音も祖母の暴挙よ。
この子能登の子? 四方桃代。東京の子よ。炎を灯そう。ぼろぼろの衣の泥を除去よ。そよろそよろと歩道のところを競歩。ぽとぽとと午後の桃と桜桃。その包丁も戻そう。
オートモードのロボを殺そう。ぼろぼろのノートをほどこう。桃とチョコと大トロとそぼろをこぼそう。書庫の祖母の著書もポーのよう。能登の男の子よ、今日、東京の少女を追おうよ。
なぜか知らないが妙に穏やかじゃないムードになる。「祖母を殺そう」にならなくてよかった。「東京都」を「oグループ」に入れてもOKなルールとした結果、意志をあらわす「~よう」がいっぱい登場して、やたらといろいろなことをやりたがる人になってしまった。「uグループ」以上にラップ調になった気がするけれど、「o」はおしゃれな音なのかもしれない。そして架空の名前が出てくるときは最低一つは逆さ言葉の名前をねじ込みたがるという、私の悪い癖が出てしまった。
こうして並べてみると、「aグループ」は和語がいっぱい入ってやわらかなムードになる。「u」と「o」のグループは非和語の響きのおかげで都会的でクールなムードになる。「eグループ」は砕けた粗野なムードになって、「iグループ」は……腹話術みたいになる。