あまり難しすぎないようにしたいならおすすめのNG文字は「し」だ。文字そのものはよく使われるが、助動詞にあまり使われないため(「~らしい」くらいか)、言葉の終わりのほうに出てくることが少ない。出てくるとしたらたいていはじめのほうだ。「わたし」のような代名詞だって、倒置法を使わない限りはだいたい頭のほうで使う。「し」はそういう特性があるので、ある程度意識して文字を使わないようにするのが比較的容易だ。語尾近くでうっかり使ってしまうということを避けやすい。
ゲームのプレイヤーの中に男の人がいる場合は、「だ」をNG文字にするといいかもしれない。語尾に「~だ」と付けるのはいかにもな男言葉だ。女性だって使うといえば使うけど、やっぱり社会的な性のせいか、男は自ら意識している以上に男言葉を使う振る舞いをついついしてしまう。男の無意識をあぶり出すのにちょうどいいかもしれない。そして「だ」を封じられた男たちがどんな語法を繰り出してくるかも注目に値する。ですます調で通すとか、「~よ」「~ね」とオネエ風になってみるとか、「~なり」「~けり」と古語風にしてみるとか、とにもかくにも「男らしさ」から遠ざかった語法にどうしてもなってしまう。ナチュラルに振る舞える人もいれば、無理が出てしっちゃかめっちゃかになってしまう人もいるだろう。「だ」に加えて「ぜ」や「ろ」もNG文字に追加するとさらに男言葉の領域が狭まる。「~じゃねえ?」という言い方も男の若者言葉としてよく取り上げられるものだから、「ね」「え」もNGにしてみよう。あまり男言葉を使っている自覚がない私ですらも、言葉に詰まってくる。無意識に囚われている「男らしい言葉遣い」の枷に自覚的になる効果が、「だ」や「ね」のNGによって生まれることがある。
当たり前だが、小説などの物語や、ロジックを求められるレポートなどにこのリポグラムを取り入れたら、構成がめちゃくちゃになる。ギリギリの状況に追い込まれた言葉がどれだけ悲鳴をあげて壊れてゆくかを楽しむのが、リポグラムの面白さだ。だから「読む」という行為はストーリーを追いかけることだと決めつけて疑わない物語至上主義みたいな人は、リポグラム小説を楽しめないようだ。かわいそうだなと思う。言葉を物語性というところでしか楽しめない人は、言葉そのものの面白さに肉迫することは永久にできないのだ。そういう意地悪なことを思ってしまうのは、私がストーリー性の強い読み物を楽しむことができなくて、小説が(ついでにいえば長いコミックも)嫌いな性格だからだ。今まで言葉遊びについて山ほど書き殴ってきたのも、「小説が読めない奴は読書家じゃない」と平気で言い放つ物語至上主義の奴らに仕返しをしてやりたかったというどす黒い気持ちに支えられてきたところもないではない。
ところで、皆様果たしてお気付きであっただろうか。私が、一行目から今に至るまで、「ん」の文字を一回も使わずに書いてきたことを。「ア段」や「母音」や「日本語」という単語を封じられているんだから、言葉遊びについてのまともな文章なんて書きにくいことこのうえないっちゅーんじゃ!と、最後に「ん」を使いまくりながら、ひとまずペンを置こうと思います。んじゃね。