冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』は、「安楽死」を望む子どもたちが廃病院に集うというショッキングな設定の現代ミステリー。
「十二人それぞれに異なる家庭環境があり、死を考える理由がある。現代を生きる僕たちにとって必要な一作だ」
「登場人物と同世代だからこそわかるリアリティがある」
など、自分たちに引きつけて評価する声が目立った。
門井慶喜『家康、江戸を建てる』は、家康が関東の荒れ地を整備しインフラを作り上げていく過程を、技術官僚らの視点で描く連作時代小説。
「なじみのある地名が出てきて楽しみながら読める」「いや、東京に住んでいない人には、地図がないとわからない」
といった素朴な感想から、
「『プロジェクトX』みたいに面白いけれど、これは歴史読み物。小説の面白さとは違うのでは」との本質的な問いかけまで、幅広い意見が。
「最後、天守閣から江戸の街を見渡す家康の描写がすばらしい。すべての物語の背後に『こういう都市を作りたい』という家康の信念が感じられる」と、小説的描写を評価すべきとの声もあった。
荻原浩『海の見える理髪店』は第155回直木賞受賞作。
「一篇一篇が独立した短篇集で、自分のペースで読めるし、最後の作まで読むと、もう1度読み返したくなる工夫もある」と、短篇集という形式を「読みやすい」と評価する声が相次いだ。世代をまたぐ家族の姿を描いた作品だけに、
「家族にもそれぞれ異なる悩みがある。家族との関わりが希薄になっている今、読みたい本」との声がある一方で、
「高校生にはわかりにくい」
「『いい話』だが、響かなかった。大人になって再読したら『いい話』で終わらない良さがわかるのかも」との戸惑いも。
原田マハ『暗幕のゲルニカ』は、ピカソの名画をめぐる美術サスペンス。
「(『ゲルニカ』を)最初はただの落書きのように思っていたが、楽しく読むうちに絵についても興味がわき、自分なりに調べて理解できた。ピカソについてもっと知りたくなった」と、興味の幅が広がったという声が複数あった。
「9・11後のNYで平和の象徴である『ゲルニカ』を隠そうとする動きがあったことは、憲法改正や愛国心が取りざたされる今の日本の状況と無縁ではない。私たちが生きている現代とつながっている小説だ」と、作品のもつメッセージ性を評価する意見の一方で、
「反戦のメッセージが前面に出すぎているのでは? そこばかり注目したら、小説は何かを訴えるための道具になってしまう」との厳しい声も。
「絵は描かれて終わりではない。見た人にどんな影響を与えたか、絵画自身がどんな運命を辿ったかも含めて物語になるのだとわかった。読み終えて、ピカソも『ゲルニカ』も私にとって特別な存在になった」と、多くの生徒にとって「芸術と小説」について考えるきっかけになったようだ。