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「マイノリティは人生懸けて声をあげろ」はおかしい ゲイ作家・もちぎさんが覆面を貫く理由

もちぎ✕七崎良輔対談 #2

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もちぎ ネコだけど攻める人を、いわゆる“男らしい”というニュアンスを込めて「オラネコ」って表現することがありますけど、そういう言葉が存在するのって、「ネコ」は“女らしい”という前提があるからだと思うんです。

 さらに言えば、ネコやウケが低く見られる風潮も存在すると思う。マンガでは、ウケを自称すると乱暴な扱いを受けるから、ウケとは言わずに、タチ寄りリバを自称する知人のことを書きました。

七崎 多いですね。ずっとウケで売ってたのに、25歳になってリバを自称し始めた友人を知ってます。ウケは若くて可愛らしくあるべき、という風潮があるというか。

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「おじさんウケ」が少ないのも固定観念じゃないか

もちぎ そういうゲイの世界の固定観念ももっと考えていきたいんです。これはBLの話なんですが、自分が大好きな「おじさんウケ」ジャンルがBLに少ないのも、固定観念があるからじゃないかと思っていて。

 

七崎 おじさんウケって、なんですか。

もちぎ おじさんがウケで、若い子がタチってやつです。おじさまや年上にはリードしてほしいっていう人がおそらく多い中で、その逆。

七崎 私も勝手に、おじさまがリードするものだと思ってたかも。

もちぎ でしょう? 日本だけじゃなくて、海外のゲイビデオを見ていても、若い子がウケてるものばかりなんですよ。父権主義じゃないけど、年上の男性、恰幅がある男性はリードすべきっていう意識が万国共通であるのかもしれない、と思って。

七崎 おもしろい。確かに、おじさんがウケてても、別に全然アリなわけですよね。

もちぎ そうなんですよ! 男性学的な視点で言えば、そういう「リードしなきゃいけない」ってプレッシャーって、ゲイの中でも「男性らしさ」の苦しさを生んでいるのかもしれない。だから、自分は、おじさんに甘えてほしいという考えを今一生懸命、啓蒙しています。不純な考えじゃないですよ。啓蒙としてやらせてもらってます。

七崎 もちぎさんも、甘えたいんじゃなくて、甘えられたいってことですか。

もちぎ そうです。自分が今仲良くさせてもらっている男性も、自分より年上の息子がいるんですけど、そういうことで葛藤して、弱っているところが見たい……背負ってるものがある人、悩んでる人のために同性婚の制度を獲得するとかは自分の力じゃできないけど、精神的な柱になってあげたいというか……。

七崎 難しくて途中からよくわからなくなった(笑)。

 

もちぎ とにかく、そういうことをゲイの視点から言語化していくと、セックスの話にとどまらず、すごく広がっていくと思うんです。ゲイカップルにも男らしさ、女らしさがあるんじゃないか、ウケに対して三歩下がって歩けみたいな姿勢があるんじゃないかみたいな、とか。

七崎 そうすると、同性婚の話にも、すごくつながってきますね。目指す先は、一緒なのかも。私は目の前のことで精一杯なのに、もちぎさんは本当に色々考えていて……ついていきます。

もちぎ いや、こちらこそついていかせてください。2人でぐるぐる回りましょう(笑)。

七崎 ぐるぐる回っちゃう(笑)。

(前編「『なぜ初対面のおじさんについていったの?』誰かに受け止められたかったゲイ男子・七崎良輔さんの心境」を読む)

写真=平松市聖/文藝春秋

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