男性は「生活のすべてを仕事に注ぎ込める」能力を求められがち
その上、日本社会には男性の家庭参加を阻む思想があるという。それが多くの職場で要求される「生活態度としての能力」だ。
「『生活態度としての能力』とは、生活のすべてを仕事に注ぎ込める能力のことです。いまだに多くの会社では、残業や休日出勤をいとわず、勤務後や休日にも仕事に関連した勉強をするといった社員が高評価を得ています。管理職を担っているような世代には、家事や育児にどれだけ労力がかかるか、実感としてわかっていないこともその思想を推し進める要因の一つでしょう。管理職らが想定する働き方は、到底、家事育児と両立できるものではありません。男性の育休取得率が6%程度と、制度があるにも関わらず極端に利用する人が少ないのにはこういった思想が影響しているといえます」(田中氏)
この過酷な環境下で、男性の家庭参画が推し進められているのだ。
「男性のなかには『父親や上司に比べるとだいぶマシ』なのだから、妻から家事や育児が不十分だと怒られると『こんなに一生懸命なのに』と反発を覚える人もいるでしょう。妻よりも夫の方が稼ぎが少ない場合、いっそう立つ瀬がない。実際、アメリカの研究では妻よりも給料の安い夫が、あえて自分の男らしさを示すために家事をやらないという事例もあります。
矛盾した要求に対してどちらかもあきらめず、まじめに取り組もうとする人ほど、生きづらさを感じてしまうのです」(同前)
とはいえ田中氏は「しかし東出さんにはまったく同情しません」と言う。田中氏は、妻が第2子出産時にしばらく入院することになり、その間、長男と2人で生活をした自身の経験を語った。
家事育児を“手伝う”スタンスでは見えなかったこと
「短期間ですがとても貴重な”ひとり親体験”でした。言うことを聞いてくれない長男に対して、感情的に怒鳴ってしまったことが2回あります。翌朝、長男から『お父さんが優しくなるようにお手紙書いたの』と言われました。まだ字が書けないので夢で見たのでしょう。そのあとは本当に後悔して、気持ちが沈みました。スーパーなどで子供に声を荒げているお母さんの気持ちがやっとわかりました。少しでも目を離せば死ぬかもしれない存在を守る重荷は凄まじい。これは家事育児を”手伝う”というスタンスでいるうちは見えてこなかった。
男性も女性も育児世代にとって、価値観が激変している現代の環境は過酷です。だからこそ夫婦それぞれが向き合って、自分たちの生き方を模索しなければいけない。妻の負担を見て見ぬふりをして飲み歩いたり、ましてや不倫している場合ではありません」(同前)
東出の不倫に端を発して聞こえてきた子育て世代の現実。週刊文春デジタルのアンケート「好きな夫婦」「嫌いな夫婦」(募集期間は2019年8月26日〜11月8日)では、杏と東出は「好きな夫婦」部門の6位にランクインするなど、多くの夫婦にとって理想の夫婦の象徴的な存在だっただけに、騒動は男女双方の心を大きく揺さぶっているのだ。