植田まさし、70歳。「コボちゃん」「かりあげクン」「フリテンくん」、そしてこの夏「おとぼけ部長代理」としてリニューアルした「おとぼけ課長」などの作品で、日本の4コマ漫画界の先頭を走り続ける「巨匠」である。前回に続くインタビューの後編では、日本が4コマ漫画に沸いた時代の回想から、「独特」と語る漫画技法の話、なぜ中小企業のサラリーマンを描き続けるのかまでを、じっくりと語っていただいた。
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初めて明かす、おとぼけ課長のモデルになった人物
―― 6月に「おとぼけ課長」が連載開始から36年、初めての昇進で話題になりました。タイトルも「おとぼけ部長代理」と装いも新たになりましたが、またなんでこのタイミングで出世したんですか?
植田 まあ、出版社側が何かテコ入れしたいってことでそうなったんですよ。「総理の意向」ならぬ「版元の意向」(笑)。「コボちゃん」は2009年の10月14日の回(連載第9764回)で、コボが兄になることがわかって大きく展開したでしょう。「かりあげクン」は、いまJRでずいぶん使ってくれていて目立っているでしょう。あれ、いろんなバージョン描かなきゃなんないから大変なんだけど。なので、そろそろ「おとぼけ課長」もどうにかしようか、って流れになったんですよね。
でも昔、おとぼけ課長がそのまんま出世もせず、課長のまま会社を辞める話を描いてるんですよ、特別編みたいので。
―― ええっ!
植田 だから部長代理って言っても、課長のまま「代理」を務めてますよ、という設定なんです。そうじゃないと、辻褄が合わなくなっちゃうから(笑)。
―― 「おとぼけ課長」は『まんがタイム』創刊時からの連載ですよね?
植田 そうです。で、おとぼけ課長のモデルはこの雑誌の初代編集長なんですよ。ヒゲとったらそっくり。古島當夫(ふるしま・まさお)さんといって、私より4つくらい年上でした。おとぼけ課長の下の名前が、今回初めて出たでしょう? おとぼけまさおって。これ、古島さんからそのままいただいたんです。
―― また秘話が出てきましたね。
植田 古島さんが編集長をした『まんがタイム』は、4コマ漫画だけ載せた初めての雑誌なんじゃないかな。「4コマ誌をやりたい」と言うんだけど、私なんか「えー、何言ってんの?」みたいな感じだったんだよね、全然ピンと来なくて(笑)。
―― ご自身は4コマ漫画家なのに(笑)。
植田 そう。でも4コマだけの雑誌なんて考えられなかったからなあ。「そんなの作ったって売れないですよ」って言ったんだけど「いやぁ、でも作ろうと思うんだよ」って。確かにその頃、81年ごろは4コマブームだったんですよ。いしいひさいちさんの「がんばれ!! タブチくん!!」が大きかったと思う。4コマで何ページも描けるんだぞって開拓してくれたところがあるから。出版社にも4コマの持ち込みが増えていて、それなりの手応えはあったんだろうと思います。
明石家さんまが「のんき君」を演じた
―― 『まんがタイム』の表紙って、今までずっと「おとぼけ課長」なんですか?
植田 そうです、ずーーっとなんです。4コマ雑誌、作ってもらってよかったと今では思いますよ(笑)。
―― ブームだったこともあり、先生の作品もドラマ化されたりもしていますよね。自分でご覧になったりもしましたか?
植田 そりゃ見ますよ。「のんき君」は明石家さんまさんが主演。フジテレビの月曜ドラマランドっていう枠じゃなかったかな。あと「キップくん」は前川清さん(笑)。それから「まさし君」が風見しんごさんで、「すっから母さん」は西田敏行さんね。
―― 「おとぼけ部長代理」は誰に演じてほしいですか?
植田 難しいなあ……。ヒゲが似合う人……、誰でもできそうだけどね(笑)。おとぼけ課長はモデルがいたけど、ほとんどのモデルは自分自身なんです。というのは、私の描く主人公のタイプは大きく分けて2つ。かりあげクンみたいな「黙って何かを仕掛けるタイプ」と、おとぼけ課長みたいに「何かをやって失敗するタイプ」です。これって自分の中にある両面性なんですよね。