大多数の「変わらないもの」を描き続けている
―― 先生は4コマ目から考えると聞いたことがあります。
植田 そうですね。まず純然たるアイデア。それも機械的というか、物理的なアイデアですね。シチュエーションを考えるんじゃなくて、コップとかテーブルとか、実体のあるものを仕掛けにしたアイデアを考える。
―― 最近の4コマ誌には「萌え4コマ」が増えましたが、先生はどうお感じになっていますか?
植田 パッとしたオチがないんですよね。それは物理的なオチじゃなくて、状況オチに頼っているからだと思うんですよ。「こうだよね」「うん、そうだよね」っていう連帯意識の中での、その場の空気オチっていうのかな……、具体的なオチへの期待感がないんですよ。結局それはキャラクターに頼っているということで、キャラ頼りの漫画って長続きしないと思うんです。
―― そうした中で、植田先生の漫画が長続きしている理由って、何だと思われますか?
植田 うーん……。変わらないものを、通俗的に描き続けているからでしょうか。
―― デビュー以降、サラリーマン漫画を描き続けてこられるなかで「企業戦士」から「ゆとり世代」と、日本のサラリーマン像もずいぶん変わったと思います。会社という組織自体も大きく変わって、それこそ「働き方改革」とか「フリーアドレス」とかはまさに現代性の一つの象徴ですよね。こういう現象は作品に投影したりはしないですか?
植田 よく、作品の中に現代性を反映させないんですか? とか聞かれるんですけど、現代性って変わりやすいからね。どこ座ってもいいよ、とか、プレミアムフライデーだとか、そういうのって余裕のある会社だけのことじゃないですか? 大変なところなんて、金曜日早退きしてられないですよ。要するに丸の内とか大手町に勤めている人と、神田とか新橋に勤めている人の違いって大きくなっているんじゃないかなと思います。かりあげ正太やおとぼけまさおが勤めているのは、いわば「フツー」の会社だから「旧態依然」のまま。私は、その大多数の「変わらないもの」を描き続けているんだと思っています。
「おとぼけ課長」はすぐ家に帰る
―― 「おとぼけ課長」連載開始の2年後、83年に、弘兼憲史さんの「課長 島耕作」がスタートします。あちらはどんどん出世して会長にまで上り詰めたのに比べると、おとぼけ課長の変わらなさは際立っていますね(笑)。
植田 あっちは一流企業の初芝電器で、こっちは芳文商事っていう中小企業(笑)。まあ、低いほうにずっと目を注いできた感じはありますね。あと、家族です。「おとぼけ課長」はすぐ家に帰るんですよ。仕事より家庭が主軸なんです。
―― 確かに。年頃の娘もいますけど、家族みんな仲良しですもんね。
植田 こういう家庭がいいよな、っていう理想像を描き続けることには意識的かもしれません。リアルな現代の家族像を描く漫画もたくさんあると思いますけど、やっぱり「いい家族」をずっと描き続けたい。長続きするものって、だいたいそうだと思うんですけど「いいもの」なんですよ。「いい漫画」「いい役者」「いい企業」。「うまい役者」「稼ぐ企業」って、それはそれで褒め言葉かもしれないけど、それって現在を言い表しているだけじゃないかって気がするんですよね。それよりは、「いい」という状態をキープしていたい。
―― 先生、その「いい漫画」が生まれる仕事場にお邪魔してみたいのですが、拝見してもよろしいでしょうか?
植田 ああ、いいですよ。ご案内しましょう。
#3につづく
うえだ・まさし/1947年、東京生まれ。中央大学文学部哲学科卒業。82年、第28回文藝春秋漫画賞。2016年、日本漫画家協会賞大賞。作品に「コボちゃん」「かりあげクン」「おとぼけ課長(現・おとぼけ部長代理)」「フリテンくん」など。現在も年間1100本余りの四コマ作品を描き続ける。
写真=鈴木七絵/文藝春秋