新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、2月27日、安倍晋三首相は全国の小中高校への「臨時休校」を呼びかけた。これを受けて「文春オンライン」編集部が行った緊急アンケート調査では、「休校要請に賛成」が56.5%、「反対」が43.5%という結果だった。
突然の要請に教育現場はどうなったのか。自身でも学習塾を経営する矢野耕平氏が、「何も正解がない」という業界の混乱ぶりをレポートする。
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この1月・2月におこなわれた「2020年度の首都圏中学入試」はまさに大激戦であった。
森上教育研究所のデータを見ると、もっとも首都圏の中学入試が集中する2月1日の午前入試に挑んだ私立中学受験者(小学校6年生)は41,308名である。これが私立中学受験者総数に近い数値とされている。この数値だけを見てもピンとこない人が多いだろう。下の表に目を向けてみよう。
中学受験は「学校から選ばれる時代」に
この表に目を通すと、2020年度の中学入試の激戦ぶりが一目瞭然であろう。しかも、2020年度は1都3県の募集定員総数を上回る私立中学受験者数となった。つまり、中学受験は「学校を選ぶ時代」から「学校から選ばれる時代」に突入したことを意味している。
なぜ、これだけ首都圏の中学受験が活況を呈しているのだろうか。最大の理由は2020年度・2024年度から実施される「大学入試改革」が混乱していて、わが子の先行きに不安を覚えた保護者が、子の中学受験を選択したという点だろう。また、都心の「教育熱の高い」エリアでは児童数が増えているという背景もある。
大盛況の中学受験。それだけに、わたしの経営する中学受験専門塾を含め、多くの進学塾はこの春「新年度生」の募集活動に忙しい。
しかし、そんなタイミングに直撃したものがある。
もはや説明は不要だろう。そう、新型コロナウイルスである。
まさに「正解のない問い」を突き付けられた
大手中学受験塾はすぐさまこの春の中学入試状況を紹介する「入試報告会」開催を見合わせた。
そして、衝撃的だったのは2月27日の安倍首相による「全国の小中高への休校要請」である。翌日の28日の文部科学省の担当者による会見では「一斉休校はあくまでも要請であり、各教育委員会などが休校しない判断をすることは排除しない」との見解を示した。大混乱である。
いずれにせよ、これらの緊急事態に対して、多くの学校は休校に踏み切った。
これにわたしたちのような「私塾」はどう対応すべきか。この判断は相当難しい。まさに「正解のない問い」を突き付けられたのだ。実際、安倍首相による「休校要請」が発表された翌日は、わたしの塾に通う子の保護者たちから何件もの問い合わせ・要望があった。
「我が家は共働きで、今回仕事を休むことはできない。塾が開いていないと、子をどこに行かせてよいかわからない」といった悲痛な叫びがあったかと思いきや、「このような状況下、塾通いをすると周囲から白い目で見られるのではないか。塾として今後の営業をどうすべきか検討してほしい」という声も寄せられた……。さて、どうすべきか。わたしは取り急ぎ29日の朝に営業方針を打ち出すことを保護者に告知した。