「将棋界で唯一の存在」
こういったフレーズからは、永世七冠の羽生善治九段や、デビューから29連勝という記録を打ち立てた藤井聡太七段の名前が思い浮かぶ人が多いだろう。
しかし、今21歳の可憐という表現がまだ似合う女流棋士・塚田恵梨花女流初段も、将棋界唯一の存在のひとりである。
彼女の父は塚田泰明九段。そして母は、高群佐知子女流四段。兄弟や姉妹、父や母のどちらかが棋士という関係性は複数いるが、両親ともに棋士というルーツを持つのは、歴史をさかのぼっても彼女以外にはいない。
棋士の両親の間でどのように将棋を始めたのか。ひとつ屋根の下に現役棋士が3人もいる家庭は、どういった環境なのか。その生い立ちから、今の生活ぶり、将棋にかける思いなどを聞いてみた。
負けがとても悔しくて「強くなりたい」
――まず、将棋を始めたきっかけから教えてください。
塚田 ルールを覚えたのは、小学1年生のときです。母から教えてもらったのですが、それは両親がプロ棋士だからルールくらいは教えておこうといった感覚だったようです。
――親の仕事だから教えておこうと。
塚田 そうですね(笑)。
――では、本格的に将棋に打ち込むようになったのは、いつ頃でしょうか。
塚田 「強くなりたい」と思うようになったのは、小学4年生のときに出た「駒姫名人戦」がきっかけでした。これは女の子だけが出られる大会の第1回目で、当時は参加人数もそれほど多くなかったので、私も連れて行かれて出場したんです。
――結果はどうでした?
塚田 両親から穴熊と棒銀を教わって、対振り飛車には穴熊に囲う。対居飛車には棒銀で攻める。これで少しは勝てたのですが、結果的には負けてしまって……。それがとても悔しくて、「強くなりたい」と母が通っていた先生の教室に通うようになりました。
――では、もともとご両親が、塚田さんをプロにしたいという意思があったわけではない?
塚田 そうです。プロにしたいとは全然思っていなかったんです。
大会での敗戦が、自分でも驚くほどに悔しく残ったという塚田女流初段。それから教室に通い、女流棋士の養成機関でもある「研修会」に入会。2014年、16歳のときに女流2級でプロデビューを果たしている。