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名古屋スタディでも「有意差なし」

 名古屋スタディで特筆すべきは、患者団体である全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会愛知支部が、薬害問題に取り組んだ経験のある河村たかし名古屋市長に要望書を提出したのを契機として、調査が行われたことです。その点、ワクチンを推進する立場である国が主導して行われた調査とは背景が異なります。名古屋市の依頼を受け、調査や分析を行ったのは、名古屋市立大学の鈴木貞夫教授でした。

 そして名古屋市が2015年12月に速報の形で公表した鈴木教授の分析結果は、連絡会から提示された24項目にわたる症状の起こりやすさ(オッズ)を、ワクチン接種歴ありの人となしの人で比べたところ、接種歴ありの人で「有意に高い」ことはなかったというものでした。

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ないことをないと証明するのは「悪魔の証明」

 ところがその後、連絡会とも関わりのある薬害オンブズパースン会議が「名古屋スタディの統計処理には誤りがある」と抗議。名古屋市は速報を取り下げ、正式な発表も控えてしまいました。しかしながら、鈴木教授の分析には統計学的に正当性が認められ、2018年2月にはパピローマウイルスリサーチ誌に論文が掲載されています。社会的に注目された調査であったからこそ、その議論のためにも、解析結果の公表は控えられるべきではなかったと考えます。

吉村泰典・慶應義塾大学名誉教授

 とはいえ、ワクチン接種に起因する症状が絶対にないとも言い切れません。ただ、「ないことをない」と証明するのは、まさしく「悪魔の証明」にほかなりません。

 しかし、どの程度「ない」と言えるかについては、確率論に基づき、疫学的に見積もることができます。祖父江班の調査と鈴木論文から言えるのは、HPVワクチン接種による副反応が絶対ないとは言えない一方、HPVワクチン接種後に見られた症状のすべてがHPVワクチン接種に起因したとも言えない、ということです。

 過去に薬害をもたらしたスモンやサリドマイドでは疫学研究でも薬剤と症状の因果関係が明確に出ました。HPVワクチンでは、そのような因果関係が見いだせなかったのです。

 もっとも、不調を訴える方々を無視してよいとは思いません。私は、ワクチン接種後の症状に対してきちんとケアする無過失補償制度が必要と考えています。医師も行政も、重い症状に苦しむ方々のサポートに真剣に取り組むべきです。