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小池、橋下の福祉シフトを信用できるか

 ただし、イギリスの例えば労働党支持者の中にも、私がここで述べたほどに口を極めてジョンソン首相を批判することはためらわれる雰囲気があると感じられる。それは、現状があまりにも危機的であるためでもあろうが、もう一方で、ジョンソン首相なり保守党なりが、コロナ危機を受けて実際にこれまでの緊縮政策を改める可能性があると感じられているからであろう。

 このような図式は、イギリスだけではないように思われる。例えば東京都知事の小池百合子は、コロナ危機が生じる前までは、都知事としての公約がほとんど実現されていないなど、存在感を失っていた。また、3月までは、東京オリンピックの実現に足を取られてコロナ対策が後手に回ったということで批判もあった。

 ところが、私の感覚では、おそらく国に先んじて新型コロナウイルスによる休業への補償を打ち出したあたりから、小池都知事のリーダーシップの評価はうなぎ登りになったように思われる。小池都知事がこれまで、手厚い福祉を訴える政治家として人気を得たなどということは、さらさらないにもかかわらず、である。

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小池百合子都知事 ©AFLO

 他にも、ジョンソン首相の例を彷彿とさせるような事例がいくつか生じている。例えば、元大阪府知事・大阪市長の橋下徹が、ツイッターで以下のように述べたことである。


 府知事・市長時代に、2010年代イギリス保守党と同様に、徹底的な緊縮と新自由主義改革を行った橋下徹が、このような反省を述べる。これには一方でやはり「どの口が」という反応も出てくるだろうが、もう一方ではコロナ危機の現状において、状況の読みに長けたポピュリスト政治家たちが、緊縮・新自由主義一辺倒ではまずいということを悟りはじめている事例として、受けとめることもできる。

ポピュリストとどう向き合うか

 このコロナ危機は、国家や公的なものの役割を大きく変えていくだろう。新自由主義と民営化=市場化一辺倒だったここ数十年の流れがついに変わっていくかもしれない。例えば航空会社の破綻と、その国有化・公有化などは十分にあり得ることであるし、欧州ではじつはすでに起こっていた、さまざまな産業やインフラの再公営化(岸本聡子『水道、再び公営化!』(集英社新書)などを参照)が、世界各国で加速していくかもしれない。

 そのような「福祉シフト」に、一部のポピュリスト政治家たちは敏感に応答しようとしている。これをシニカルに、懐疑の目だけでもって見るのは、それはそれで間違っている。福祉シフトはそれ自体必要なのだから。

 だが、その一方で、当該の政治家がつい数ヶ月前まではとっていた政治的路線をあっけらかんと忘れて、福祉シフトを演ずる彼ら/彼女らを称賛することも、危険なのである。私たちは、民主主義社会の成員としての力を今こそ試されている。

©iStock.com

参考文献
秦邦生「ブリタニア病院を立て直せるか──からだ、医療、福祉をめぐる諷刺と論争」川端康雄ほか編『愛と戦いのイギリス文化史──1951-2010年』(慶應義塾大学出版会、2011年)第12章